Saidai Concierge vol.25
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Welcome to my laboratory光で捉えられない激しい現象や天体が見える? 一般的な天体望遠鏡は、天体から出る光を観測するものですが、天体は可視光の他にX線も出しています。例えば「太陽フレア」などの激しい現象ではX線が出やすく、「ブラックホール」からは光ではなくX線が出ているのです。私の専門である「高エネルギー宇宙物理学」は、そのような光では捉えられない天体や現象をX線を見ることで解き明かす学問になります。 X線は大気を通さないので、地上では観測できません。そのため観測は、専用の装置を人工衛星に載せて行います。現在は、昨年打ち上げたものの、故障したX線天文衛星「ひとみ」の代替機を作るプロジェクトに携わっている最中です。なお「ひとみ」にも搭載された「X線マイクロカロリメーター」という装置はこれまでの50倍の精度でX線を観測できるもの。「ひとみ」は故障しましたが、この装置の能力は実証されたため、天文学の未来を切り拓く技術として期待されています。宇宙を知ることは自分たちの世界を知ること 私が取り組み続けている研究テーマの1つに「ガンマ線バースト」という現象があります。これはブラックホールができる際にガンマ線が放出される現象ですが、その発見のきっかけとなったのは、米ソ冷戦中に米国の核実験監視衛星が偶然ガンマ線を検出したことでした。そして、ずっと謎とされてきたこの現象が解明されたのは、今世紀に入った頃のこと。天文学というのは、まだまだそういう発見がある分野です。 かつて地動説が世の中を変えたように、宇宙を知るということは、現在でも社会そのものを変えていく力があると感じています。つまり、宇宙物理の研究は我々人類の世界観を広げることに繋がっていく——そんなことを考えながら研究に取り組んでいるのです。理学部 物理学科/田代研究室天体からのX線をキャッチして宇宙の謎を解き明かすProfile田代 信[たしろ まこと]理工学研究科 教授1988年 東京大学理学部卒業1993年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了2000年 埼玉大学理学部助教授2006年 埼玉大学理工学研究科助教授2007年より現職論理的に解決する力を人生に活かす 物理学というのは、「どういうことかわからない」「何かおかしい」という問題を探し、それを論理的に解決していく学問です。ただ、論理的に解決するということは非常につらい作業です。様々な批判やあらさがしを全て受け入れ、それを全部つぶしていかなくてはいけないことですから——。 しかし、そのプロセスはどのようなことにも活用できると思いますので、学生の皆さんには、そのやり方を身につけて卒業してもらいたいですね。例えば、卒業研究なり、論文なりで実践した論理的解決の経験を糧に、社会で活躍して欲しいと思います。研究しやすいオープンな環境が魅力 物理学の分野に限ると、埼玉大学は他大学に比べて、学生数が少ないため、先生と学生の距離が近く、教育に熱心な先生が多い印象がありますね。また宇宙物理の研究のしやすさでいえば、実験でよく訪れるJAXAの宇宙科学研究所(神奈川県)や筑波宇宙センター(茨城県)に日帰りできる立地にあることは大きなメリットです。また、ここで天文学会を開催した際に大学側が非常に協力的だったように、開かれた雰囲気を大切にしているのもこの大学の特徴です。このことは様々な大学や機関との協力が欠かせない我々の研究分野にとってはありがたい限りですね。message田代教授より受験生へ▲実際に人工衛星に搭載されたX線観測装置の写真。観測部は光を通さないカーボンファイバーで覆われている8SAIDAI CONCIERGE

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