SAIDAI CONCIERGE vol.27
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Welcome to my laboratory津波や高潮、河川の氾濫から街を守る「Eco-DRR」 津波や高潮が発生した際、海岸にある干潟や砂丘、海岸林などが、押し寄せる波の勢いを弱めるケースがあります。私が取り組んでいるのは、そのような自然環境を堤防などの構造物と組合せることで、防災あるいは減災機能を高める研究。位置関係など、それぞれの要素をどう組み合わせれば効果を最大化できるのかを明らかにする訳です。 生態系を基盤として災害リスクを低減しようという、このような対策は「Eco-DRR」と呼ばれます。堤防などの構造物だけでは災害対策に限界があることを思い知らされた東日本大震災以降、より注目されるようになりました。 現在、取り組みの一環として、減災型街づくりの提案も行っています。具体的には、防風林を生かしながら、堤防や堀などの人工構造物を組み合わせた北海道のパイロット事業や、私がこの研究を始めるきっかけになったインド洋津波の被害を受けたスリランカでのプロジェクトにも参加しています。また、津波だけでなく、河川の氾濫リスクの軽減も主要な研究テーマの1つ。埼玉県を流れる荒川流域の潜在的氾濫リスクを見える化するプロジェクトなどにも携わっています。対策の第一歩となる水理現象解明の難しさ 研究は、まず水理模型を使った実験によって、力学的に水の動きや防御のメカニズムを解明することからスタートします。その上で数値解析を行い、一般化していくのです。また災害発生地での調査も重要な研究手法。実際に起きた現象を分析することから様々な教訓と対策へのアイデアが得られるのです。形のない水が起こす現象は非常に複雑です。だからこそ、よく観察し、じっくり考察しないと何が起こっているのかわかりません。そのようなことを常に意識して、日々の研究に取り組んでいます。工学部 環境社会デザイン学科/田中研究室自然環境との共生によって災害に強い街づくりを実現させる課題解決のアイデアを自ら創出し、それを実行できる人材に 研究室の学生には、問題解決に向けて、様々なアイデアを出せる力を磨いて欲しいと考えています。そこで、ゼミではこちらからすぐに答えを教えるのではなく、できるだけ学生自身に考えさせるような指導を心がけています。また卒業論文について学生たちに言っているのは「世界初のことに取り組みなさい」ということ。卒業論文といっても1年かけて行う研究です。誰も行っていないことを成し遂げることで得られる自信は大きな財産になります。さらに卒業論文は学会発表を推奨しています。これは提案力や発信力を養うためにも、よい経験になると思います。首都圏で防災・減災研究を行う大きな意義 埼玉県には荒川と利根川という大きな河川がありますが、ここで氾濫などが起こると首都圏に甚大な被害を与える可能性があります。だからこそ、この地域をメインのフィールドとして行う防災・減災の研究成果は、世の中に大きなインパクトを与えるものになります。そのような意味で、埼玉大学での研究は、非常にやりがいのある仕事だと感じています。 また留学生が多いのも埼玉大学の魅力です。学内で自然に国際交流ができるので、将来グローバルに活躍したい学生はぜひ来て欲しいですね。message田中教授より受験生へProfile田中 規夫[たなか のりお]工学部 教授1986年 東京大学工学部土木工学科卒業1991年 東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻・ 博士課程修了2000年 埼玉大学工学部講師2002年 埼玉大学工学部助教授2007年より現職多重防御構造を模した水理模型を使った実験の様子。装置内に波を起こし、堤防(左の隆起した部分)と海岸林(右側の棒状のものが並ぶ部分)が及ぼす影響を調べます9SAIDAI CONCIERGE

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