滋賀大学 教育学部
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学校教育教員養成課程ガイダンス20 「ピアスがなぜだめなの?」増えるニューカマーの子どもたち̶小学校6年生のパウラさんは2年前に両親とともにブラジルからやってきた。欠席がちだった日本の学校にもようやく慣れ、なかよしの友だちもできて、担任の高木先生は少しほっとしたところだ。しかし、卒業式を控え、先生には一つ心配ごとがある。4月からパウラさんが通うことになるS中学校が、生徒のピアスを禁じていることだ。ブラジルでは、小さいときに誕生のお祝いとしてピアスをつけてもらうのはごく普通のことである。小学校では何も言わずに済んだのだが、中学校になると、日本人の生徒だけ禁止するわけにはいかないという理由で、パウラさんもピアスをつけないように言われるだろう。そのことをパウラさんにどう説明すればよいのだろうか? それが原因で中学校に通うことが嫌にならないだろうか?̶ こうした教師の悩みは、現在では決して特別なものではありません。2016年度に日本の学校に在籍する日本語指導が必要な外国人児童生徒は約3万4,000人。その多くは、1980年代末以降に南米やアジアなどから日本に移り住んだ外国人(それ以前から日本に居住する外国人「オールドカマー」に対し、彼らは「ニューカマー」と呼ばれる)の子どもたちです。なお、滋賀県の外国人人口は2008年をピークに増加から減少に転じましたが、2014年からは再び増加傾向にあります。具体的には、2012年の時点では県民58人に1人が外国人でしたが、2018年では48人のうち1人となっています。輝く瞳を受け止めて彼ら外国人労働者は使い捨ての労働力ではありません。彼らとの共生なしに、もはや日本社会は成り立たないところまで来ています。その子どもたちの支援が、いま教育現場の深刻な問題になっているのです。言葉や文化の壁にもがき苦しむ子どもたちを前に、「ポルトガル語(ブラジルの公用語)も喋れないのに、どうやってサポートすればいいのか」と立ちすくむ教師が少なくありません。 不安を胸に校門をくぐるニューカマーの子どもの視線の先には、先生の姿があります。その思いを受け止め、傷つきやすい心を暖かく包み込むには、彼らが教室に持ち込む「異和感」を積極的に「価値」と思い共鳴する柔らかな感性を、誰よりも教師が持たねばなりません。異文化理解とはカッコイイ知識の集合ではなく、ひとりの人間の人生を変えうる泥くさくて力強い人間力なのです。国際理解教育専攻はそういう先生をつくるために生まれました。ことばと感性から外国人の隣人と共に生きる柔らかな感性は、言語をとおした理解とともに身体感覚をとおしても養われます。そこで、国際理解教育専攻では、「言語文化と異文化理解」「視覚文化と異文化理解」「音楽文化と異文化理解」「身体文化と異文化理解」といった、言語・感性・身体のさまざまな側面から、文化の相互理解について学びます。 また、4年間に多くの国際理解のための体験を積んでもらいたいと考え、地域の学校に通う外国籍児童生徒のサポート活動や、海外交流プログラムをコースの実習科目の中に組み込んでいます。これらの体験は、力強い人間力を持った教育者として育つために、必ずや大きな意義を持つでしょう。国際理解教育専攻|初等教育コース

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