※学生の学年表記は取材時(2022年度)のものです。SUAC_014飾された社殿は、銅板葺きの屋根にまで黒漆が塗られ、贅を尽くした総合芸術作品といえます。静岡浅間神社では文化財建造物保存修理事業「平成・令和の大改修」が進行中で、漆の塗り替えが次々と行われています。文化財の修理は傷んだ部分のみ行うもので、建築当初の技法を調査・研究した上で、職人によって忠実に再現するという技術継承の機会であり、一般市民やSUAC生の教育の場としてもご協力いただいています。国産漆の確保が大きな課題であり、静岡市を拠点とする「オクシズ漆の里協議会」では、漆の植樹から漆塗り、さらに木材としての漆、天然染料としての漆、食材としての漆など、その輪はさらに広がり、漆を核とした持続可能なサイクルを目指してプロジェクトが勧められており、それぞれの立場で参加しています。大きかったはずです。他に類を見ない巨大な拝殿は、中央の柱2本が1、2階を貫き通柱となっています。長大な通柱は2本の柱を木組み(継手)で継ぎ合わせたもので、柱の足元と継手部分は、鍛冶屋が作った金輪で補強されています。通柱の周囲に1階、2階それぞれの柱を立てて、横架材でつなぎ固めて組み上げていきます。漆塗りや彫刻等の仕上げに取り掛かり、10年の歳月をもって、光沢ある「二階拝殿」は完成されました。「二階拝殿」の正面に立ち、見上げて感じる大きさは特別で、建築を取り巻く背景にも思いをめぐらせると、完成した時の駿府の人々の感動はたいへんなものだったと想像してしまいます。巻頭特集 _知と実践の力 1 学びのキーワード 2 学びの現場 3 学びのその先へ先人たちからのメッセージを受け取り、未来へつなぐ新妻先生やSUACの友人たちと共に研究や調査を進めていく上で、日本の伝統建築の技やデザインの素晴らしさを実感しています。また、伝統建築を知るために背景となる歴史を学んだり、当時の人々の生活を想像したりする過程は、先人たちからのメッセージを受け取るようで胸が高鳴ります。私も未来の人々の心を打つようなメッセージを伝える役割を担う一員となれるよう、研究に励んでいきたいです。藤田さと デザイン学科2年 静岡県立磐田南高校出身風土と共に暮らしてきた日本人の知恵と工夫が詰め込まれた駿府の重層建築「二階拝殿」静岡浅間神社の再建は、神部神社浅間神社の本殿からはじまり、次に着手されたのが江戸時代を通じて「二階拝殿」と呼ばれた特異な建築です。焼失した境内の空間に高さ約21mの二階建ての拝殿が再建されるわけですから、駿府城下から見守る人々の期待は日本の伝統建築は、宝箱伝統建築から学ぶこと伝統建築を起点とした研究から、まだまだ多くの日本人の知恵と工夫が導き出されるでしょう。文化財のように正確に継承されるべきものもありますが、先人たちの技やデザイン、社会の仕組みなどについて、学び、活かせることも沢山あります。私たちは長い歴史の中の一員であることを自覚し、先人たちの知恵を未来の人々へ伝える役割を担っていきたいと思います。伝統建築×古文書伝統建築をより深く知るための手掛かりの一つとして古文書があります。和紙に墨で書かれたくずし字は、何百年も前のことを私たちに伝えてくれます。研究を進めている静岡浅間神社は、徳川家の祈願所で三代将軍家光によって大造営が行われましたが、江戸時代中期の火災によって全焼してしまいました。駿府城下町の北端に位置する社殿群が焼失したことは、駿府城下の空気や景観、さらには人々の心にまで大きな影響を与えたはずです。すぐに駿府社会は動き出し、16年後に再建を開始してその工事は明治維新まで続きました。建築現場の様子を記録した『御再建場所日記』が静岡浅間神社に60冊伝わっています。そこには建築工事の進■状況、建築資材の調達、駿府を中心とした職人の連携、役人組織、町方・村方の参画、年中行事などが活き活きと描かれています。注目すべき点は、社殿の再建に用いる木材の木っ端の払下げで、無駄なく材料を使用することが、駿府の工芸の発展にもつながったであろうことなど、江戸時代におけるリサイクルとメンテナンスの実態も見えてきました。漆の輪静岡浅間神社と久能山東照宮とあわせると漆塗りの社殿は35棟を数えます。建物全体を漆で塗って彩色を施し、彫刻や飾金物で装特別誌面講義【デザイン学部編】
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