知と実践の力 学びの現場行政学/政策評価・行政評価少人数のゼミ演習では、行政に関するテーマについて議論米国生まれ福井市育ち。専門領域は政策評価や行政改革。行政機関が有効に機能するための組織や業務のあり方や、政策評価について研究している。主な著作は『自治体評価の戦略 - 有効に機能させるための16 の原則』(東洋経済新報社、2014 年)等。静岡県議会本会議の傍聴や議員との意見交換会を実施 文化政策学科の「行政学」という科目では、中心的なテーマとして「公務員」を取り上げます。公務員とは、いわゆる役所に勤務する人を指しますが、国の行政機関(中央府省)に勤める国家公務員と地方自治体に勤務する地方公務員に大別されます。2023年度時点の公務員数は339万人であり、内訳は国家公務員が59万人、地方公務員は280万人となっています。意外かもしれませんが、日本の公務員数は先進国の中では際立って少ない部類に属しており、全就業者数に占める公務員数の割合は、OECD加盟国平均の3分の1程度に過ぎません。 公務員は、雇用や給与が安定していることや、国や地域への貢献につながる仕事に関わることができることから、大学卒業後の就職先として長らく高い人気を維持してきました。しかし近年は、職場の高残業体質や民間企業と比較した給与水準の低さなどから、その人気に陰りが生じています。とはいうものの、文化政策学科の学生の間では、卒業後の進路として公務員人気は依然として根強く、私のゼミからも毎年のように何人かの学生が公務員になる道を選んでいます。 行政学で公務員を中心テーマとして取り上げるのは、公務員が極めて重要な役割を果たしているからです。中央府省や自治体は、社会の問題を解決し、人々がより幸福になるために様々な政策を立案し、実施しています。政策を立案するのは、政治家(首相、閣僚、国会議員、首長、地方議員)の役割です。そして、政治家が立案した政策を実行に移すのは、中央府省や自治体の職員、すなわち公務員の役割です。 政治家がどんなに理想的な政策をつくっても、公務員がその政策を適切に実行しない限り、その政策は社会に対して何の効果ももたらしません。公務員に求められるのは、政治家の意図を■んだ上で、政策を実行可能でかつ有効性の高い計画に落とし込み、さらにその計画に基づいて政策を着実に実施することです。 社会を取り巻く環境が大きく変化し、解決すべき社会問題が複雑化する中で、公務員がこうした仕事を首尾よくやり遂げるのは、以前とは比較にならないほど難しくなっています。これに伴い、公務員のあり方にも変化が求められています。 行政といえば、かつては変化に取り残されるものの代名詞でしたが、ようやく変化の兆しが現れています。例えば、2021年9月に発足したデジタル庁は、約千人の職員の半数を民間出身者が占めており、勤務形態や仕事のスタイルも、従来の中央府省とは一線を画した方式を採用しています。また、中央府省であれ自治体であれ、今や行政が単独で政策を実施する機会は少なくなっており、他の行政機関や企業、NPO等と連携して、政策の実施に取り組むことが当たり前になっています。 社会の変化に即して公務員のあり方は変貌を遂げつつあります。公務員についての理解が深まれば、公務員が果たすことのできる役割の可能性と限界も見えてくるはずです。文化政策学部 文化政策学科変化のめまぐるしい社会において、公務員が取り組む社会課題も複合化・多様化していることから、民間の活力やノウハウを積極的に取り入れたり、産学官民をはじめとしてあらゆる社会主体との連携を強化したり等、社会変化を鋭敏に捉え柔軟に計画・施策を構想し有効に実現していく力が公務員に求められていると考えました。太田ほの香 文化政策学科3年 浜松市立高校出身SUAC_011特別誌面講義 文化政策学部編 【科目/行政学】田中 啓 教授2SUAC公務員の「これから」を考察する
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