TechTech~テクテク~No.26
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 外科の手術といえば、執刀医がおなかにメスを入れ、内臓などの患部を処置していく─。そんなイメージを持つ人が多いだろう。しかし今、開腹、開胸による外科手術の割合は確実に減少傾向。一方で増加しているのが、内視鏡を使った手術だ。 「おなかに5mmから数cmの穴を開け、そこから内視鏡や手術器具を挿入して行う内視鏡手術のメリットは、何より患者の負担が軽減されること。当然ながら傷の跡は小さく、治りも早い。手術の種類によっては翌日に退院できるケースもあります」  そう解説してくれたのは、精密工学研究所の只野耕太郎准教授。内視鏡手術用ロボットを開発・製造するベンチャー企業を今年6月に設立したメンバーのひとりだ。先端の工学技術を医療に生かす「医工連携」は、東工大が力を注いでいるテーマのひとつ。2010年には、医療・健康・安全分野でのイノベーションを目指す「ライフ・エンジニアリング機構」を立ち上げ、疾病の治療、診断、予防にかかわる多彩な研究も推進している。  現在、只野准教授が開発を進めるロボットは大きく2つ。それぞれ、内視鏡、手術器具を遠隔操作するロボットだ。内視鏡手術では、当然、直接患部を見ることができず、また体の中に手を入れられないため、機器を遠隔操作する技術が重要になるのである。  ひとつ目は、その名のとおり「内視鏡操作システム」。実は内視鏡手術では、手術を行う医師(術者)のほかに、内視鏡を操作する助手がいるのが一般的だ。術者は両手で手術器具を扱うため、助手が術者から口頭で指示を受け、内視鏡の位置や向きを調整する。「しかし長時間の手術になると、疲労などでモニターの映像が乱れてしまう。そもそも術者のイメージ通りに内視鏡を操作するには熟練が必要で、人材確保も内視鏡手術の課題となっているんです」。 そこで只野准教授が開発しているのが、ロボットアームに内視鏡をセットし、術者自身に取り付けたヘッドマウントディスプレイでそれを操作するシステムだ。  「ヘッドマウントディスプレイに傾きや動きを検出するジャイロセンサーを搭載し、術者の頭の動きに追従してロボットアームが動く仕組みにしています。特長は、術者が見たい方向に顔を向けると、それに応じて内視鏡も動くところ。見たい方を向くという当たり前の動きで操作できるため、特別な訓練を必要としません。高い緊張を強いられる手術の最中、機器の操作に頭を切り換えるのは大きなストレスですから、“直感的な操作”を重視して開発を行いました」  只野准教授の言う通り、このロボットの魅力は何より自然で違和感のない操作性だろう。これまでも音声やボタンで内視鏡をコントロールする装置はあったが、多くは「右・左・上・下」と直線的な動きしかできなかった。つまり右斜め上を見たければ、まず右に動かし、そして上に動かす必要があった。しかし今回のシステムなら、術者はそのまま右斜め上を向けばいい。これは微妙な動きを頻繁に求められる実際の手術で大きな強みとなる。  すでに大学病院での臨床試験を重ね、現場の医師たちからも高い評価を受けている内視鏡操作システムは、先述のベンチャー企業から来年の春に発売予定。現在、性能に磨きをかけているところだ。 そしてもうひとつ、内視鏡手術の質を大きく向上すると期待されているのが「力覚を有する手術支援ロボットシステム」の開発である。頭の動きで内視鏡を自在に操作手術器具が感じた“手応え”を手元で再現A医師のイメージ通りの手術を支援2014 Autumn7

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