TechTech~テクテク~No.27
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たんぱく質の中を一酸化炭素が移動する様子の撮影に成功レーザー照射前300分後450分後810分後上の写真は、筋肉にあるミオグロビンというたんぱく質の中を一酸化炭素が移動する様子を撮影したもの。これまでミオグロビン内の穴を観察すると、ひとつひとつが独立しており、貯蔵された一酸化炭素がどのように移動するのかわかっていなかった。腰原教授らは、これにレーザー光を当て、たんぱく質内の穴を次々につなげることに成功した。本来、体内ではガスの働きによって穴がつながるが、その現象を光ドミノ効果によって人工的につくり出したのだ。にも掲載されたが、腰原教授自身、当初は常識を超えた実験結果に目を疑ったという。 「実験を担当していた学生が報告に来たとき、初めは『きっと何かの計算ミス、割り算の桁数でも誤ったんだろう』と思いました。しかし再度検証しても、間違いない。実験の対象にしていたある有機結晶はレーザー光線を当てると、氷のように固まった電子が、まさにドミノ倒しのように一気に溶け、超高速で伝導体に変化したのです。そのときの衝撃を今も忘れられません」 その後、光誘起相転移は世界各国の大学や研究機関で研究され、現在では無機結晶を含めて同様の変化をする物質が数多く発見されている。加えて、それを光デバイス材料とする応用研究も進行中である。 光誘起相転移の活用領域は、情報処理の分野だけではない。例えばそれは、エネルギーの分野でも注目の的だ。実際、太陽光をより素早く、効率的に電気に変換する材料の開発プロジェクトなどが、すでに各所で進められている。次世代太陽光発電の開発においても、光によるドミノ倒しがを握っているのである。 こうして光による相転移が多様な可能性を見せるなか、腰原教授のグループは、もうひとつ重要なテーマに取り組んできた。それは、光誘起相転移のメカニズムを観測する装置の開発だ。 「光の刺激でその特性を変化させる物質が見つかったとなれば、その具体的な仕組みを解明することが私たちのような基礎研究を担う生命現象の謎を解明A:10兆分の1秒での時間分解分光測定に用いる光学系の一部。/B:再生増幅型フェムト秒パルスレーザーの動作確認のために、光パルス増幅過程を観測。/C:時間分解分光測定に用いる光パルス(繰り返し1キロHz)のタイミング調整。ACB8Tech Tech

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