アメリカ合衆国憲法には、法律の内容を定めるのは議会であり、大統領は議会が決めた法案の全体を、認めるか拒否するか判断することが定められています。ところが2005年、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は法案への署名の際、議会が書き込んでいた拷問を禁止する文言の無効を宣言しました。憲法には明記されていない行為です。しかしアメリカ政治史をさかのぼってみると、署名時声明（signing statement）と呼ばれる手法が行政府の憲法解釈として「合法化」されていたことが分かりました。しかも、「合法化」の経緯に、政府に雇用されていた法律家の助言があったことも現地での資料調査により明らかになりました。 私の研究の関心はアメリカ政治の構造に向いていますが、同盟国である日本は必然的に関わりを持ち、ゼミでは両国の政治の比較をテーマとしています。政治の世界では、公職者や行政組織が公にした言動や文書の背景にある事実にまで視線を届かせることで、初めて意思決定の真実が見えてくるものです。ルールの書き替えが生じる政治的なメカニズムを解明するアメリカ大統領の権限拡大を「合法化」した歴史的事実CASE 2#憲法解釈#制度運用#日米比較研究と教育研究者としては、アメリカ政治の構造とメカニズムの解明をテーマとし、ゼミではアメリカと関係が深い日本の政治体制との比較をテーマにしています。研究室紹介比較政治ゼミ社会科学の研究は、独自の問題意識を出発点とします。毎年、学生の皆さんの着眼点はどれもユニークです。それを研究として昇華するため、自らの関心を論理的に構築し、論文としてまとめる指導に力を入れています。誰もが面白い問題関心を持っている。肝心なことは説得力ある論理を構築できるか。アメリカと日本の政治の比較アメリカ政治の構造とメカニズムの解明比較研究アメリカ研究法学部 梅川 健 教授007特集１／研究・プロジェクト紹介
元のページ ../index.html#9