東京都立大学(旧首都大学東京) 大学案内 2022
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 社会のインフラとなる情報通信分野の基盤技術を研究開発する公的研究機関を職場としています。所属するセキュリティ基盤研究室は、「機能性暗号技術」「暗号技術の安全性評価」「プライバシー保護技術」の3領域を研究対象とし、私は「暗号技術の安全性評価」に携わっています。 現代は、インターネットによる通信を当たり前に利用する社会です。近年はIoTの普及、高速通信の実現を背景に、個人情報を含む膨大な量の情報がネットワークを介してやり取りされています。インターネット上でクレジットカードの番号などの重要な個人情報を送信する際には、それらが漏洩しないように暗号技術が使われています。現在広く使われている暗号として、巨大な整数の素因数分解の困難性を利用したRSA暗号などがありますが、特にRSA暗号は実用的な量子コンピュータが開発されると、効率的に解読できてしまうことが懸念されています。そのため量子コンピュータを使っても解読が困難な暗号、即ち、耐量子計算機暗号(PQC)の研究開発が必要になりました。 私の研究とは、PQCを解読可能な条件を算出し、その結果をPQCの安全な運用につなげることです。現在PQCとして様々な方式が提案されていますが、その中には多変数の連立代数方程式の求解の困難性を利用した暗号があります。その暗号の安全性を調査するために、何個までの変数の問題が解けるかを競う国際的な解読コンテストも開かれています。私は暗号で利用される連立方程式を高速に解くための手法を考案し、それをプログラミングにより実装して、数値実験により得た結果から再度新しい理論を構築することを繰り返しました。その結果、解読に10年以上かかると予想される問題を実用的な時間で解くことに成功し、解読の世界記録を達成しました。 この課題は、大学院での研究でやり残したものでした。数学を学ぶために大学に進学したものの、当初は計算式を解くだけだった高校までの数学とは異なる大学での数学に戸惑いました。しかしユニークな先生方に惹かれ、どこまでも論理的に突きつめる数学の魅力に気づきました。また、友人に誘われて意図せず履修したプログラミングにも夢中になりました。現在の研究には、大学で学んだ数学とプログラミングが、私の強みとして活かされています。 大学院時代から持ちこした課題はひとまずの結論を得ましたが、それがゴールではありません。さらに複雑な数式を解き世界記録を更新する挑戦は続きますし、まだ誰も手をつけていない課題も、私を待ち構えています。数学科がある大学を探して本学に入学。高校までのように数式を解くだけはなく、数式を作る前提についても議論する大学の数学で、論理的思考力を養う。友人に誘われて、初めてプログラミングに挑戦し、思いがけず熱中する。Prole伊藤 琢真 さん国立研究開発法人 情報通信研究機構/サイバーセキュリティ研究所 セキュリティ基盤研究室 研究員特集1卒業生インタビューネットワークを飛び交う大切な情報が量子コンピュータの時代においても情報が解読されない安全かつ高速な暗号技術の開発につなげたい。量子情報理工学研究科数理情報科学専攻 博士前期課程(現 理学研究科 数理科学専攻)2016年度修了生TMU #RESEARCH&ACTIONReport04018Tokyo Metropolitan University GUIDE BOOK 2022

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