東北大学広報誌 まなびの杜 No.78
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学校の授業でICTが活用されているか聞いてみましたが、「活用されている」と答えたのは十二人でした。整備はされても活用は進んでいない現状がうかがえます。なぜ、ICTの活用が進まないのでしょうか。 日本教育振興会が二〇一一年に行った調査では、教員のICT活用の学びのイメージとしては一斉授業での活用をイメージしている 学校の授業でICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)を積極的に活用することが求められています。現在、児童生徒六・二人に対し一台の教育用コンピュータが設置されており、特にタブレット型コンピュータの整備が進んでいるようです。一人に一台とまでとはいきませんが、工夫すれば児童生徒がICTを使った授業を受けることができる環境は整いつつあると言えるでしょう。 OECD(経済協力開発機構)による二〇一二年実施のPISA(学習到達度調査)では、日本は読解力と科学的リテラシーで一位、数学的リテラシーでも二位となり、二〇〇三年の結果、いわゆるPISAショックからの回復が大きく報道されました。しかしその影で、学習に関するICT活用率は軒並み平均よりも低い結果となり(表1)、最下位となった項目もあるという結果も報告されました。私も昨年、高校生三五〇人に教員が多く、児童生徒の協働的な学習、例えば互いに議論したり、国内外の子どもたちと意見を交換しあったりするために使おうと考える教員は少ないとのことです。これは、教員は児童生徒が「学ぶ」ためというよりは「教える」ためにICTを使いたいと考えていることを示唆していると思われます。確かに、これまでのICTを活用したという授業は、写真や映像、または児童生徒の解答・作品を大型モニターで映しだすというものが多いです。また、児童生徒がICTを用いたとしても、図書館で調べさせていたものをインターネットで調べさせるものや、壁新聞をプレゼンテーションソフトで作成するといったものが中心です。どれも新しい授業ですが、従来の授業の一部分をICTで置き換えただけの授業でその本質が変わったわけではありません。結局、従来の「教える」ための授業ではICTを使っても少し便利になる程度で、これまで通りでもうまく教えられるのであれば無理して使うほどでもないと考えるのが自然です。 「これまで日本の教育はあまりに成功しすぎた。現在その成功経験から飛び出せず変化についていけていない」。これは先日お会いしたある通信会社会長のお話しです。社会が大きく変わろうとしている今、教育だけが従来通りではやがて立ち行かなくなることは十分予想できます。現在は学習指導要領にもある通り、自ら学び、自ら考え、主体的に判断行動できる能力の育成等が求められています。つまり「教えられる」から「学ぶ」子どもへの変革が必要とされています。教員たちの「教えたい」という思いは大変素晴らしいものです。しかし今後はそれを少し変えて、児童生徒の「学び」を支援するという意識へ変化させていくことが必要なのではないでしょうか。 今、ICTはその人の目的に応じた使い方、すなわち主体的に学ぶためにも使えるようになりつつあります。「教える」から「学ぶ」、この視点に我々が立てたとき、ICT活用の真の効果が発揮されるのだと思います。進むICTの整備と進まないICTの活用ICT活用のイメージは「教える」ために使う教育が変わらなければICT活用は進まない佐藤 克美◎文text by Katsumi Satoまなびの杜 78号|01ICT活用は「学び」を変えるのか写真/美術鑑賞でのICT活用場面写真/3D映像を見る子どもたちStudents, Computers and Learning: MAKING THE CONNECTION(OECD publishing 2015)の Figure2.1をもとに作製。実はこれらの項目すべてで日本は最下位です。学校でのICT活用についてはデンマーク・ノルウェーなどの国が高く、日本は平均を大きく下回っています。表1)学校でどの程度ICTを活用しているか日 本OECD平均1位の国(%)学校のwebサイトで資料をダウンロードしたり、アップロードしたり、閲覧したりする学校でオンラインチャットをする外国語や数学の練習や問題を行う学校のコンピュータで個別の宿題をする学校のコンピュータをグループワークや生徒同士のコミュニケーションに使う4.12.32.94.72.422.821.718.618.517.8デンマークオーストラリアデンマークデンマークノルウェー(47.9)(61.7)(41.1)(56.4)(34.6)「教育」考│新世代へのメッセージ│佐藤 克美(さとう かつみ)現職/東北大学大学院   教育情報学研究部 准教授専門/教育工学 教育情報学関連ホームページ/http://www.ei.tohoku.ac.jp/html/sta/sato.html

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