東北大学広報誌 まなびの杜 No.78
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東北メディカル・メガバンク機構地域住民コホート調査寳澤 篤◎文text by Atsushi Hozawa寳澤 篤(ほうざわ あつし)1970年生まれ現職/東北大学   東北メディカル・メガバンク機構 教授専門/疫学、公衆衛生学関連ホームページ/http://www.megabank.tohoku.ac.jp/tommohttp://www.med.tohoku.ac.jp/org/cooperate/200/index.html地域大学と02|まなびの杜 78号 東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、未来型医療の実現と東日本大震災被災地の復興に取り組むために二〇一二年二月に設立されました。未来型医療とは一人ひとりの体質に合わせた予防・医療を指します。この事業の大きな柱に被災地域を中心とした地域の皆さまの健康状態をより良くするための健康調査があげられます。私たち東北大学では妊婦さんを中心とした三世代コホート、そして地域住民の方々を中心とした地域住民コホートの二つの大規模調査を立ち上げました。コホート調査というのは病気の原因を調べる調査法の一つで、健康に暮らしている方に対し、血液検査や生活習慣に関する調査を行い、その後大きな病気にかかっていないかを追跡する研究です。この研究方法で、どういった素因をもち、どんな生活をしている人がその後病気になりやすいのかを調べることができます。 調査を始めるにあたっては、宮城県及び県内全三五市町村と協力協定を締結しました。また、可能な限り地域の保健サービスにご迷惑がかからない方向での調査を計画しました。具体的には市町村が実施している特定健康診査の会場での募集を中心としました。調査実施にあたっては市町村の担当者や健診団体の方々とも情報交換を密に取らせていただきました。また上記の方法ですと参加資格のない方もおられますので、全ての方が自発的に調査に参加できる地域支援センター型調査も別途準備しました。地域支援センターは太平洋沿岸部中心に七ケ所(気仙沼、石巻、多賀城、仙台、岩沼、大崎、白石)に設置し、現地で雇用したスタッフを教育し、ゲノムメディカルリサーチコーディネーターという遺伝子に関する疫学調査に関する説明ができる資格を取得してもらった上で、調査の主体として活躍してもらっています。 二〇一三年五月から二〇一六年三月にかけてほぼ県内全域で調査をさせていただき、協力いただいた方は目標を上回る約五万二千人にのぼりました(図)。同様の調査を共に実施した岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構と合わせると、八万人以上もの方にご協力いただきました。 現在、最終データの取りまとめを進めているところですが、これまで中間的にとりまとめてきた結果として「内陸部と比べ沿岸部で抑うつ状態や心理的苦痛のある者が多かった」「内陸部と比べ沿岸部の方で高血圧の治療中断率が高かった」「家屋の被害が大きかったものでメタボリックシンドロームの有病率が高かった」などがあげられます。種々の危険因子が被災地で増加しており、今後、震災による健康の二次被害(がん、脳卒中、自殺者が増える)が起きないよう情報発信を急ぐとともに、追跡調査を続けることでどういった方でリスク上昇が起きやすいかを評価し続けたいと思っています。 私たちの調査には未来型医療を築き、早期に住民の方々に還元するという目標があります。ゴールは一人ひとりの体質にあった治療と病気にかかりにくい生活スタイルを提案することです。そのため、遺伝子情報の解析や生体の詳細な血液データの分析を進め、これらの情報を健康調査データに合わせて保存しています。これらの情報を広く全国の研究者・企業とともに分析を進めていくことで東北大学だけが分析するよりも早く一人ひとりの体質にあった予防法・治療法を開発することができると考えています。 今後も被災地の健康の保持増進及び未来型医療の確立を目指して頑張っていきたいと思います。皆さまのご協力ご支援をよろしくお願い申し上げます。東北メディカル・メガバンク機構とはこれまでに見えてきたこと健康調査の実施未来の医療を築く図)特定健診参加協力型調査 実施エリア(宮城県)宮城県内 同意者数推移http://edit.freemap.jp/2016年3月までに52,000人の方にご協力いただいた2013年度調査開始2014年度調査開始2015年度調査開始

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