東北大学広報誌 まなびの杜 No.78
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04|まなびの杜 78号指の発生過程から裏付けた田村「話を整理すると、いま生きている生き物で鳥に一番近い動物はワニです。これをもとにワニと恐竜と鳥の関係を図にすると(図1)恐竜と鳥は違う生き物として生じていることになります。そうではなくて、ワニよりも恐竜の方が鳥に近い可能性も考えられて、これがどっちなのかということです。一五十年間化石を研究する研究者がいろんな比較をして、鳥は恐竜にいちばん近いだろうという話になったんですけど、どうしても解けない矛盾がありました。それが指なんです。」田中「指ですか。」田村「ワニには人間と同じで指が五本あるんですが、鳥に一番近いといわれている獣脚類は指が三本なんです。化石を年代順に並べるとわかるんですけど、小指と薬指がなくなっていき、獣脚類では親指と人差し指、中指の三本が残っています。ところが、現生の鳥は人差し指と中指と薬指を持っていると言われてきました。これでは鳥と恐竜は別々に指を進化させていったということになって、別の生き物ということになってしまいます(図1)。この矛盾が解けないと鳥が恐竜から出てきたということが言えなくなってしまうんです。」田中「ここの部分が整理できないと、ですか。」田村「ところが、発生の過程で指がどこから、どうやって作られていくかをいろんな動物を使って比べると、この矛盾が解消されることが分かりました。発生過程を調べると、小指のできかた、薬指のでき方、中指のでき方、がわかるんです。指がどのようにできてくるかを比較することで、鳥の指も親指・人差し指・中指として作られると結論して、鳥は恐竜でいいんじゃないかと私たちが五年前にサイエンスという雑誌に発表したんです。」田中「結果、同じでいいとなったんですね。それはどうしてですか?」田村「できてきた形ではなく作られる過程を見るとそれを1、2、3という番号をつけ直せるということが分かって、進化の過程でもともと鳥とワニの祖先の指が五本だったのが、恐竜で三本になって、そのまま鳥も三本になったといえるわけです(図2)。」田中「へぇー、そういうことなんですか。先生は発生学にヒントがあると思っていらっしゃったんですか?」田村「そうですね。三十年、生き物がどうやって作られてくるかを調べていたので、その知識を使えば出来上がりの形だけではわからないことがわかるのではないかということをずっと考えていて、この問題も解けるのではないかと思っていました。」将来は人の手も再生できる?田村「私は、鳥だけではなく、動物の指がどうやってできるかということを研究しているのですが、中には一度なくなってももう一度指を作れる動物がいるんです。それを再生といいます。しっぽをもつ両生類は、指はもちろん手足だけでなく、いろんな臓器を再生することができます。考え方としては、再生できない人間との差を理解できれば、僕らの手を再生させるためのヒントになるんじゃないかと私は思っています。私たちが実験でずっと使っているのは、カエルです。カエルは、手を切られると何か作ろうとするんですが、尾っぽをもつ両生類とは違って完全に再生はしません。最近、私たちの研究室ではこのカエルにもある程度指のようなものを再生させられるようになってきていて、カエルならそのうち完全に指を再生させられるのではないかと思っています。人の手をいきなり再生させるのは難しいかもしれませんが、指ができてくる過程が全部わかると、どこに問題があるか突き止められます。そこを変えてやると理屈の上では再生させられるということになります。」田中「とても楽しい話でした。まさか、獣脚類が鳥につながっているという決定打を出された方とお話しできるとは思いませんでした。僕も鳥が恐竜の祖先だと認識しているので、それを紐解かれた方とお話ができてすごく勉強になりました。ありがとうございました。」田中直樹(たなか なおき)1971年生まれお笑いタレント、俳優お笑いコンビ・ココリコのリーダーでボケ担当相方は遠藤章造田村 宏治(たむら こうじ)1965年生まれ現職/東北大学大学院 生命科学研究科 教授専門/発生生物学、動物学関連ホームページ/http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/tamlab/index.html図1/鳥がワニに最も近いとした場合の系統関係図2/鳥の指の番号を123として描き直した系統関係田村 宏治教授注:『ドラえもん科学ワールド 恐竜と失われた動物たち』まんが/藤子・F・不二雄 監修/藤子プロ 監修/真鍋真他(二〇一一)
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