東北大学広報誌 まなびの杜 No.79
12/12

 写真は、一九〇五(明治三十八)年二月二日、仙台の土井晩翠に宛てた夏目漱石(当時三十八歳)の自筆絵葉書です(東北大学「晩翠文庫」所蔵)。水彩で自画像が描かれ、「自分の肖像をかいたらこんなものが出来た何だか影が薄い(中略)。君が僕を鼓舞してくれるから今にもつと肥つた所をかいて御目にかける」と書き添えられています。文面冒頭にも「君は僕の気焔に驚くと云ふが僕は君の健筆に驚ろいて居る。(中略)何しろ大にやり玉へ」と記されており、両者が互いに励まし合う関係にあったことがうかがわれます。 この時期、東京帝国大学文科大学講師として英文学を講じる傍ら「吾輩は猫である」を発表していた漱石と、旧制第二高等学校の教壇に立ち翌年には第三詩集『東海遊子吟』を出版する晩翠との間で、頻繁に書簡の往来があったようです。同年十二月六日には晩翠から「何か君の小説の材料になれかしと望んで」西洋の女性の絵葉書が送られていました。 東京と仙台に隔たった漱石と晩翠の間で交わされたこれらの書簡は、両者の間に流れていた信頼の情を確かに伝えていると言ってよいでしょう。東北大学に漱石の蔵書や自筆資料その他を収蔵する、「漱石文庫」が設置されたのは一九五〇(昭和二十五)年のことでした。二人の蔵書等は今はともに東北大学の貴重な資料となっています。【漱石文庫】 夏目漱石(一八六七〜一九一六)の旧蔵書三、〇六八冊。英文学関係が中心で、日記、ノート、原稿・草稿などを含む。漱石の愛弟子で当時の本学図書館長だった小宮豊隆の尽力によって本学へ譲渡された。【晩翠文庫】 土井晩翠(一八七一〜一九五二)の旧蔵書。英文学、漢文学、仏教書、西洋思想関係など多岐にわたる。夏目漱石やアインシュタインからの書簡も含まれている。表紙の写真夏目漱石と土井晩翠 本学の川内南キャンパスの東向かいにある「三太郎の小径」をご存じでしょうか。仙台市の緑の名所100選にも取り上げられているこの小径は、四季を通じて心地よい散歩道です。特に桜の季節は仙台を一望しながら桜を観賞できますので、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。ところで、「三太郎の小径」の脇には支倉常長像があります。『まなびの杜』第79号の「教育考」では、遣欧使節として国際文化交流に尽力した伊達藩家臣の支倉常長に因んで名付けられた「支倉リーグ」を取り上げました。また、本学を育てた(作った)教授たちに関する「シリーズ」では、近代日本を代表する哲学者・思想家の阿部次郎(本学名誉教授)を取り上げました。「三太郎の小径」は、阿部次郎の代表作である『三太郎の日記』に由来します。仙台にゆかりのある先人の精神を受け継いだ枠組みで新しい学問領域の開拓が進められ、先人の作品名に因んだ小径で思索に耽る。我々の活動は、先人が積み上げてきたものの上に成り立っていることを感じさせられます。|編|集|後|記|『まなびの杜』編集委員会委員平成29年3月31日発行発行人:東北大学『まなびの杜』編集委員会委員長 齋藤 忠夫〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1東北大学総務企画部広報課 TEL.022-217-4977 FAX.022-217-4818この『まなびの杜』は、インターネットでもご覧になれますhttp://www.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/バックナンバーもご覧になれます 東北大学創立110周年記念企画 東北大学の珠玉コレクション●1理学研究科 准教授 寺田 直樹佐藤 伸宏東北大学文学研究科教授●●●●●『まなびの杜』は3月、6月、9月、12月の月末に発行する予定です。『まなびの杜』をご希望の方は各キャンパス(片平、川内、青葉山、星陵)の警務員室、附属図書館、総合学術博物館、植物園、病院の待合室などで手に入れることができますので、ご利用ください。版権は国立大学法人東北大学が所有しています。無断転載を禁じます。『まなびの杜』編集委員会委員(五十音順)『まなびの杜』に対するご意見などは、手紙、ファクシミリ、電子メールでお寄せください。〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1TEL 022-217-4977 FAX 022-217-4818Eメール koho@grp.tohoku.ac.jp下平 秀樹 伊藤 彰則 八鍬 友広 高田 雄京 齋藤 忠夫 佐藤 博 髙村 仁北島 周作 田邊 いづみ 寺田 直樹 菅原 歩 堀井 明 横溝 博東北大学総務企画部広報課 谷口 善孝 石垣 大夢土井晩翠夏目漱石

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る