東北大学広報誌 まなびの杜 No.79
2/12

されるのではなく、たがいの「場」を尊重しながら、広く世界と共同で進めていくことが欠くべからざる条件となります。それを支える国際学術ネットワークこそ私たちの「支倉リーグ」なのです。  「支倉リーグ」という学術ネットワークの名称は、支倉常長に由来しています。支倉は東北大学のある仙台に居城をもつ伊達藩の家臣であり、一六一三年、藩主伊達政宗の命を受け、遣欧使節としてヨーロッパへ船出していきました。東北の一藩主が、世界と文化交流を目指して使節を派遣したわけです。様々な困難がありましたが一行はローマ法王に謁見し、イタリアでは支倉の肖像が描かれ、彼ら一行の礼節と見識は、ヨーロッパでも評判となったことはよく知られています。 東北大学の全文系の研究科、研究施設、機構が中心となり、二〇一九年春、日本学国際共同大学院の開設に向けて鋭意準備を重ねています。近年、日本学というテーマをめぐって国内外で盛んに教育・研究活動が行われています。 その中で東北大学の「日本学」の特色は、全文系組織が参加することで、研究・教育領域の多様性が担保されていることです。それに加えて、本学の日本学は、グローバル化する世界を背景に、三本の柱からなり立っている点でも、他に例のないユニークなアプローチとなっています。すなわち、①地域研究としての日本学、②日本から世界の問題を捉える視点の日本学(含:広義の西洋学)、③日本文化の底流にある感性の理論化など方法論の取り組みによって新領域を開拓し、現代の課題に取り組むことを使命としています。 つまり、人類が直面する「紛争解決」「環境問題」「アンチエイジング」など喫緊の課題に人文・社会学がどう取り組み、「幸福の実現」に近づけるか、という一点で多様な領域が像を結ぶというのが、私たちの提唱する「日本学」の核心です。ですから、その教育・研究活動は、大学内や日本国内に閉ざ 「支倉リーグ」には、新たな「日本学」を築いて行くにあたって、胸襟を開き、議論を重ね、人類の抱える喫緊の課題に応える人材を共同で育成していきたいという、強い願いがこめられています。このネットワークの設立を記念して開催されたのが、二〇一五年一〇月二九日、三〇日の両日、イタリアのフィレンツェ大学を会場にした国際シンポジウム「学びの作法:対象としてのニッポン、方法としてのニッポン」でした。これには八カ国一六大学の研究者が集い、「支倉リーグ」と「日本学」の意義について述べられています(本報告集は、イタリアの出版社、ミメーシスから二〇一七年一月に刊行されました)。  この「支倉リーグ」で活発に活動することで、「学生の交流」、「教員の交流」、「学術の交流」が加速化することが期待されています。実際、二〇一六年五月から東北大学で「二一世紀の支倉常長プロジェクト」がスタートし、「支倉リーグ」加盟の大学から教員を招聘し、集中講義やワークショップ、シンポジウムを開催し、学術交流が確実に進展しています。 また、二月に川内南キャンパスで、シンポジウム「移動する知識と芸術――東西の遭遇による変貌と革新」を開催。そこでは、「福島をめぐって」というセクションで東日本大震災と原発事故がもたらす現代の課題と未来の共同の可能性について議論され、大きな反響があり、この続きをヨーロッパで実施しようという話になりました。  近い将来、「支倉リーグ」のヨーロッパの拠点をヴェネツィア大学に設ける計画もあり、多方面からのご理解とご支援をぜひお願い致します。尾崎 彰宏◎文text by Akihiro Ozakiまなびの杜 79号|01新領域としての「日本学」と国際大学院国際学術ネットワーク「支倉リーグ」「二一世紀の 支倉プロジェクト」を推進「教育」考│新世代へのメッセージ│尾崎 彰宏(おざき あきひろ)1955年生まれ現職/東北大学大学院   文学研究科 教授専門/美学・美術史「日本学」と国際学術ネットワーク「支倉リーグ」

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る