東北大学広報誌 まなびの杜 No.80
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 東北大学附属図書館蔵「漱石文庫」には、漱石の旧蔵書の他に、自筆資料として『吾輩は猫である』序文や小説『道草』等の原稿も収められています。表紙の写真は、一九一五(大正四)年に『朝日新聞』に連載された『道草』第三十三章末尾の部分の原稿です。橋口五葉のデザインになる「漱石山房」のネーム入り原稿用紙が用いられ、当時の『朝日新聞』の一段の字数十八字に合わせて行末一字分が空白にされています。本頁には三葉の原稿を掲げましたが、「斯んな記憶は」に始まる同じ一文から書き起こされ、同一頁数が記されているように、①から③に至る順で、同じ箇所が原稿用紙を改めながら幾度も書き直されていたことが分かります。それらはいずれも中途で書きさして反故にされた草稿であり、さらに加筆と訂正が加えられた原稿が印刷に付されることになりました。現在私たちが読む『道草』は、こうした過程を経て本文が確定した活字テキストに他なりません。これらの草稿が示しているのは、現行の活字本文には一切現れることのない、小説生成の錯綜した過程そのものであると言ってよいでしょう。 草稿とは単なる未完成の下書きなのではありません。改稿や抹消を重ねつつ、語るべき言葉を探り当て、複雑な奥行きを持つ小説世界を生み出していく、書くという行為の現場を生々しく映し出しているのです。表紙の写真草稿が語るもの 「世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない」──夏目漱石は『道草』(1915年)の主人公・健三に、小説の最後でこのようなことばを吐かせました。漱石が没して100年、世界の人々はじつに様々な〈片付かない〉問題を抱えて右往左往しているように見えます。紛争や災害、難病や貧困といった問題を解決し、幸福な世の中を実現するべく、東北大学の研究者は日夜研究に励んでいます。今回も『まなびの杜』では、そうした東北大学の研究者の真摯な取り組みと、研究活動によって得られた成果を、一部ではありますがご紹介することができました。世界が抱える問題はそうたやすく〈片付く〉ものではないでしょう。しかし、人が人間というものに関心を失わず、自然に対する畏敬の念を忘れない限り、学問の効力が失われることはありません。今夏もオープンキャンパスを開催します。大規模公開オンライン講座MOOCも開講されました。東北大学にアクセスすることで、より多くの方に、学問のちからというものを感じていただければ幸いです。|編|集|後|記|『まなびの杜』編集委員会委員平成29年6月30日発行発行人:東北大学『まなびの杜』編集委員会委員長 齋藤 忠夫〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1東北大学総務企画部広報課 TEL.022-217-4977 FAX.022-217-4818この『まなびの杜』は、インターネットでもご覧になれますhttp://www.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/バックナンバーもご覧になれます 東北大学創立110周年記念企画 東北大学の珠玉コレクション●2文学研究科 准教授 横溝 博佐藤 伸宏東北大学文学研究科 教授●●●●●『まなびの杜』は3月、6月、9月、12月の月末に発行する予定です。『まなびの杜』をご希望の方は各キャンパス(片平、川内、青葉山、星陵)の警務員室、附属図書館、総合学術博物館、植物園、病院の待合室などで手に入れることができますので、ご利用ください。版権は国立大学法人東北大学が所有しています。無断転載を禁じます。『まなびの杜』編集委員会委員(五十音順)『まなびの杜』に対するご意見などは、手紙、ファクシミリ、電子メールでお寄せください。〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平2-1-1TEL 022-217-4977 FAX 022-217-4818Eメール koho@grp.tohoku.ac.jp伊藤 彰則 北島 周作 齋藤 忠夫 佐藤 博 高田 雄京 高橋 信 高橋 雅信田邊 いづみ 寺田 直樹 福田 亘孝 堀井 明 増田 聡 横溝 博東北大学総務企画部広報課 谷口 善孝 石垣 大夢 清水 修『道草』33章草稿 ①『道草』33章草稿 ②『道草』33章草稿 ③『道草』1915(大正4)年岩波書店刊

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