東北大学広報誌 まなびの杜 No.81
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坂巻 竜也◉文text by Tatsuya Sakamakiまなびの杜 81号|03人類のフロンティア 人類の科学技術の進化はフロンティア(新天地)への挑戦と密接に関わっています。地球の唯一の衛星であり、三十八万㎞離れている月にアポロ十一号によって人類が降り立ったのが約五十年前の一九六九年。それから技術の進歩に伴い、人類はより遠くからサンプルを取ってくることが可能となっています。 二○一○年に日本の「はやぶさ」が、地球から三億㎞離れた小惑星イトカワから岩石を持ち帰ってきたことも、記憶に新しいと思います。現在は、「はやぶさ2」が飛行中であり、東京オリンピックが開催される二○二○年に、小惑星リュウグウから岩石を持ち帰ってくることになっています。このように人類は何万・何億㎞も離れた天体からのサンプルを回収する技術があり、それらの化学組成を調べることで天体の形成や進化を読み解くことが可能になります。 しかしながら、人類の科学力をもってしても未だ未到達の場所が、地球にあります。それは我々が生きている地球の内部です。地球は半径六四○○㎞の惑星ですが、人類が掘削できている深さはせいぜい一〇㎞程度です。つまり、何万キロも離れた天体から試料回収ができるにかかわらず、地下六四○○㎞から物質を取ってくることはできず、直接的に化学組成を調べることもできません。つまり、地球内部は人類にとってのフロンティアとなっています。地球の内部構造 地球内部の化学組成を明らかにすることは、地球の形成・進化過程を探ることに繋がります。つまり、地球がどうやって作られ、どのように変化していったのかを知ることができるため、人類にとっての大きな知的探求対象の一つと考えることができます。ただし、人類未開の地である地球の内部は、直接試料を取ってくることが困難であるため、様々な手法によって調べられています。特に有力な手段は地震を利用したものになります。地震によって発生する波は地下を通って、地表の地震計で観測されます。地震の波は、通過した物質の情報を保持しているため、それを調べることによって、地球内部が層構造をしていることが明らかになりました(図1)。 地球の内部は大きく三つに分けることができます。人類が活動している一番表面は地殻と呼ばれています。その下の深さ一○○㎞〜二九○○㎞までの領域がマントルであり、中心部は核と呼ばれています。つまり、卵のような三層構造になっています。卵の殻が地殻、白身がマントル、黄身が核といったイメージになります。ただし、マントルは液体ではなく、基本的に固体の岩石からなっています。黄身の相当する地球の核は、主に鉄からできており、二九○○㎞〜五一五○㎞までは液体の外核、最中心(五一五○㎞〜六四○○㎞)にある固体の内核に分けることができます。液体である外核は対流しており、方位磁針が北を向くような磁場を現在形成しています。磁場の役割は非常に重要で、人類を含む生命を太陽風から守るバリアの働きをしています。また、内核は地球の最深部に位置しており、直接調べることが困難であるため、化学組成も不明です。核の組成は初期の地球から現在の地球までの変遷を反映しているため、内核の化学組成を明らかにすることは地球の歴史を読み解く上で極めて重要な研究になります。様々な研究により、地球の内核は鉄を主成分とし、ニッケル・水素・炭素・酸素・珪素・硫黄といった元素が含まれている鉄合金である可地球で一番深い場所特集―高圧実験から探る地球の中心核の化学組成―図1)地球内部の三層構造地球は地表から岩石質の地殻、マントル、金属の核の三層で構成されている。さらに核は液体の外核と固体の内核に分類される。地球内部の温度と圧力は地表よりも大きく、深くなるほど温度・圧力共に増加する。

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