東北大学広報誌 まなびの杜 No.81
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04|まなびの杜 81号能性が高いと考えられています。 内核の情報として得られているのは地震学的に報告されている密度と地震波の伝わる速さ(弾性波の伝播速度)になります。密度や弾性波の伝播速度は物質の性質を知る良い指標であり、物質の化学組成などの違いによってその速度も異なった値を示します。そのため、内核の主成分である鉄の密度や速さを測定し比較することで、内核と純鉄の違いを理解し、鉄以外にどのような成分が内核に含まれているかを推定することが重要となってきます。 地球の物質の性質は実験的にも調べることができます。地表に比べて、地球内部では上に積み重なっている岩石などの重さにより、大きな圧力がかかっています。その圧力は深くなればなるほど大きくなり、地球の最深部である内核の中心だと三六五万気圧に達します。この圧力は地表の圧力の三六五万倍にもなる大きなものです。また、温度も中心ほど高くなっていき、地球の核では五○○○度〜六○○○度になると考えられており、その温度は太陽の表面温度に匹敵する高温になります。そのような極限環境において、物質は地表と同じ振る舞いをするでしょうか? 答えは当然NOになります。つまり、地表とは異なる性質を示すようになります。そのような地表では見られない性質を理解するためには、地球内部条件を再現した高温高圧実験が必要になってきます。 本研究では、地球内部と同じ環境下、すなわち超高圧高温状態を作り出した中に鉄をおき、実験的に密度と弾性波速度を同時に測定し、地震波観測によって得られている内核の密度・弾性波速度と比較することで、手元に取り出せない地球の内核の化学組成の推定を行いました。地球内部環境の再現 地球内部のような高い圧力条件を再現するために、地球上で最も硬いダイヤモンドを利用しました。ダイヤモンドは宝石として最も有名な鉱物の一つですが、高圧実験ではブリルアンカットされたダイヤモンドを二個一対で使用します。二個のダイヤモンドの先端に挟まれた非常に小さな空間に地球内部と同じ超高圧を発生させました。そして、その超高圧下に置かれた試料をレーザーで加熱して超高温状態にすることに成功しました。さらに、高い圧力と高い温度を加えられた物質の性質をX線を利用して調べました。散乱されたX線を調べることで物質の状態を知ることもできるので、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8において、高温高圧条件下における鉄の弾性波速度と密度を、同時に決定することに成功しました。地球の内核 実験で得られた結果を、地震波観測データと直接比較すると、密度だけではなく地球内核条件での鉄の弾性波速度も、実際の地球内核より高い値を示すことが明らかになりました(図2)。つまり、内核中に含まれている鉄以外の元素は、鉄の縦波速度と密度を共に減少させなければなりません。これは地球内核の組成に制約を与える上で極めて重要な研究成果です。この条件を満たす元素は図2において左下に矢印が伸びているものであるため、地球内核に含まれる軽元素としては、水素・珪素・硫黄が有力であることを突き止めました。 本研究によって、地球の内核を構成する化学組成の推定に必要な構成元素の候補を絞り込むことができ、現在の地球の内核構造の描像へ繋がりました(図3)。地球深部の内核の構成元素が分かると、外核まで含めた核全体の組成の見積りや昔の地球内部環境の予測も可能となるため、この研究成果は地球の形成や進化を解き明かすための重要な一歩であると言えます。坂巻 竜也(さかまき たつや)1982年生まれ現職/東北大学理学研究科 助教専門/高圧地球科学関連ホームページ/http://www.es.tohoku.ac.jp/JP/図2)純鉄と地球の内核との物性比較横軸は密度、縦軸は地震波が伝わる速さ。純鉄の密度と地震波が伝わる速さ(赤線)は共に地球の内核(黒線)より大きい。つまり、内核の組成は純鉄ではなく、他の成分が入っていることが示唆される。赤線の純鉄を黒線の内核に重ねるためには、密度と地震波速度を減少させる効果(左下方向の矢印)を示す元素、水素・硫黄・珪素が含まれることが有力である。図3)地球の内核の構造と組成地球の内核の温度・圧力条件では、鉄結晶は六方最密充填構造をとる。その中に水素・硫黄・珪素が入っているものが地球の内核であると考えられる。

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