東北大学 医学部 2023
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教授:免疫学分野石井直人次の社会をどうつくっていくのかを考えるきっかけにもしたいと、若手向けのセミナーを開いたり、シンポジウムで若手の研究者に発言するような機会を設けたりしています。1年、2年でということではなく長期的な視点で、若手が分野の垣根を越えて議論する場を増やしていければと思っています。教授:歯学研究科国際歯科保健学分野入って感染者や濃厚接触者の情報を管理するアプリを作ってもらったんですが、個人情報保護の観点から行政はなかなか動きませんでした。そのようなデジタル化の遅れが、保健所等に負担をかけてしまって、うまく機能が回らないといったこともありました。検査をどのように行うのか、ワクチンが供給されても誰がどこで打つのかなど、政策を実行していくには多くの課題があります。それらは押谷先生がおっしゃったように、科学技術だけでは解決できない話もあります。現場のロジスティックスであったり、法律的な課題であったり、保障の問題であったり、広くいろんな学問が寄ってたかってみんなで議論しながら解決しないといけない。そういったものを一歩前へ進めるための拠点がSDGS-IDなのだろうと思います。それも単に話し合っているだけではなく、社会実装まで含めて、地域で実践し、大学の外まで展開していくのが、この拠点のもう一つのミッションかなと思っています。押谷 これまで学際研究と呼んできたものは、例えば医学と工学が協力すると新しいデバイスができるとか、狭い分野同士がつながって新しいものが生まれるということが多かったと思います。そういったアプローチではなく社会全体の問題をいろんな分野の人たちが考えないといけないという意味で、「総合知」という言い方をしています。小坂先生のおっしゃるように、みんなで議論して論文を書いて終わりではなく、そのような問題をどう捉えてどう解決していくのか。さま03新型コロナウイルスの感染拡大は生命に危機を及ぼすのみならず、グローバル社会が抱えるさまざまな問題をあぶり出しました。これからの世界はどうあるべきか、学際的な知を結集して考えていこうと、東北大学では「感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点(SDGS-ID)」を発足。拠点メンバーにその背景と目指すところ、高校生へのメッセージを語ってもらいました。Oshitani, HitoshiIshii, NaotoOsaka, Ken自然科学だけでは解決できない問題に分野の垣根を越えて挑む押谷 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックは決して偶然起きたものではなく、起こるべくして起きたと考えています。グローバル化が進み、世界の人口も78億人以上まで増え、感染症だけではなく経済危機や地球温暖化の問題など、さまざまなリスクを内包する社会になってしまっています。これまで日本を含め先進国では自然科学の力でそれらを解決できるような幻想を抱いていましたが、COVID-19によって、科学技術が万能ではないことを突き付けられました。例えば人の死をどう考えるのかとか、あるいはさまざまな感染対策が取られましたが、何をもって人の行動が変わっていくのかは社会心理学の問題になってくると思いますし、自然科学のアプローチだけでは対応できなくなってきていることは明らかです。 幸い東北大学は総合大学で、医学・薬学・工学といった自然科学系だけでなく人文社会系も含め、いろいろな分野の専門家がいますので、そういった人たちが議論をしていくことで、この社会の問題にどう対応していったらいいのかを考えるようなきっかけにしたいと、SDGS-IDを立ち上げました。それはわれわれの世代ではなく次の世代の人たちが考えないといけないことでもありますので、この拠点の中では若手の研究者や学生に議論に参加してもらっています。鼎 談教授:微生物学分野押谷仁さまざまな分野から参画し「総合知」で実践していく石井 私は免疫学の研究者として感染症の場合はワクチンの研究、あるいはそのワクチンが効果の発揮する仕組みを明らかにする研究を行っています。しかし、私たちの研究は今回のコロナのワクチン開発につながっているわけではなく、もっと言えばおそらく日本の免疫学者は誰一人貢献できていません。メッセンジャーRNAワクチンという画期的な発明が起こって、それがなぜ効くか、副反応がなぜ起きるかを考察しているに過ぎないので、ある意味で無力感を抱きながらも、何かできないかと模索しています。ただ、こうした研究で見えてきたことや、今まで私自身が培ってきた免疫記憶の仕組みに関する研究成果なども踏まえて、今後ワクチンの方向性について提言ができると考えておりますし、集団免疫という方向から今回のパンデミックを考えていきたい。そのあたりで何か貢献できればとSDGS-IDに参画させていただいています。小坂 私は厚生労働省クラスター対策班に不確実性の高まる時代の岐路に「総合知」で立ち向かう小坂健

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