東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 2022 GUIDEBOOK
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FUTURE ORIENTED / PICK UP13 凍った道を歩くのは怖く、自転車でブレーキをかけると時に耳障りな音がします。私たちは毎日を安全であり快適に暮らすために“摩擦”と無縁ではいられません。そして安全で快適な生活のための機械も“摩擦”と無縁ではいられません。機械は要求される機能を発現するために必ず動く部分があり、そこには “摩擦”が存在します。機械の性能の劣化や故障、寿命の原因の75%はその摩擦部にあり、自動車の場合、摩擦による損失は全エネルギー損失の約30%に達するといわれます。普段は、あまり意識されていない“摩擦”は、機械における機能の高度化、信頼性、耐久性、安全性、快適性の向上、さらにはエネルギー損失低減による低炭素社会の実現の鍵を握っています。  人間は、怪我や病気に対し、生まれながらにして自然に治す力 見出しの「材料システム」という言葉ですが、素材としての材料を組み合わせて機能を有するようにしたものの総称で、電化製品がその一つです。例えばスマートフォンは通話や検索といった機能を有する材料システムですし、内部に使われている各種センサや電子部品も機能を有していますので、それぞれが材料システムです。自動車や発電プラントも材料システムですので、世の中には実に様々な材料システムが存在しています。ところで優れた物理的諸特性(機械的、電気的、熱的、光学的、等)と幾何学的特徴(細い、薄い、等)を有する金属・半導体・高分子微細材料(直径や厚さがnm〜μmの材料)が新しい材料システムの素材として活用できると期待されており、私たちはそのために微細材料の諸特性を正確に把握し、これらを有効活用す足立 幸志 教授燈明 泰成 教授を持っています。自己再生機能と自己防衛機能に代表される自己治癒力です。もし摩擦面に自己治癒力を持たすことができれば、「劣化、故障、寿命」という概念を覆す新しい発想の機械を生み出すことが可能になります。  私たちの研究室では、機械に使っている「潤滑油」を「水」に変えることができそう、窒素や水素のガスを吹き付けたり、表面を少し温めたりするだけで超低摩擦が発現する、ナノメートルオーダーの凸凹を付与することによって摩擦性能が10倍良くなる、さらには、自らの摩擦力によって超低摩擦を発現する界面を継続的に自己形成させられそうといった摩擦制御に係る様々な現象を発見しています。そのような現象を解明しながら、産業機械をはじめ医療機器や宇宙機器等での利用を視野に入れた「自己治癒型超低摩擦機械システム」の構築を目指しています。 摩擦面も、そこに発生する摩擦も誰にも見えませんが、深く入り込めば、安全安心な社会や持続的発展を可能にする社会の構築に貢献し、さらに世の中を変えられるものづくりが見えてきます。身近にあるのに知られていない、とても魅力的な世界です。るための様々な周辺技術を開発しています。 例えば極微小な力を計測する荷重検出器を開発して、金属細線の力学特性を評価しています。またこの実験技術を活用して、毛髪のしなやかさを評価したり、まつ毛が曲がる原因について調査しています。新しい材料システムの創出のためには、素材としての微細材料同士を接合することが欠かせません。金属細線同士の接触部に直流電流を付与して生じるジュール熱により細線同士を接合する手法を提案しています。また材料システムを健全に維持するためには色々な検査手法を開発する必要があります。特に新しい材料システムでは薄膜を積層した構造体が随所に使用されています。音波が薄膜を通過する際に生じる音響共鳴を利用して、様々な薄膜の物性値や厚さを計測し、また内部の欠陥を可視化する手法を開発しています。 限られた資源を有効に活用して、如何に付加価値の高い材料システムを創出するかが重要な課題となってきています。材料の新しい特性を発見し、これを利活用する周辺技術を拡充することで、これまでにない新しい材料システムを創出すべく、日々挑戦しています。研究室紹介摩擦を制御する〜自己治癒力を持つ超低摩擦機械システムをつくる〜新しい材料システム創出のために

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