東北大学 工学部 機械知能・航空工学科 2022 GUIDEBOOK
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FUTURE ORIENTED / PICK UP15 1895年11月8日の夕方、W. C. レントゲン博士は実験中に「分厚い物体も通り抜ける」不思議な光を偶然見つけ、これを数学記号の「未知の数 x」を引用して「エックス線」と名付けました。その名前の由来が示すように、当時はエックス線を始めとする “放射線”は「未知の存在」だったわけですが、100年後の現在では既知のものとして自由に操り、その不思議な特性を活用することが可能になっています。私たちの研究チームでは、その新しい技術の開発と応用手法の研究を行っています。その主な舞台となるのが分厚いコンクリート造りの建物、“粒子加速器”施設です。一言で言えば、粒子加速器とは“人工的に放射線を発生させる装置”です。自然界には多くの放射線が飛び交いますが、その種類やエネルギー、進行方向は全くの 地球科学を専門とする私は、これまで様々な辺境をフィールドワークで巡ってきました。「その中で最も印象に残っている場所は?」と問われたならば、一も二もなく「南極」と答えます。日本から14,000km離れた当地には、南極地域観測隊の一員、また調査隊隊長として、三度訪れる機会を得ました。氷点下30℃のテント生活で体感した極限の世界、そこで目にした光景は、感動という言葉がおよそ陳腐に感じられるほど、心を震わせるものがありました。地球最古の岩石を含む南極大陸と降り積もる雪が堆積した3000mに達する大陸氷床は、地球の記憶の保管庫です。こうした人間の時間軸とは異なる、地質学的スパンへの理解と視点は、私たちの研究には不可欠なものです。 地球は“水の惑星”といわれます。宇宙から見た青々とした松山 成男 教授バラバラで有効活用することは不可能です。粒子加速器では、その特徴がピッタリとそろった“混じり気の無い放射線のビーム”を作り出すことができます。私たちの施設では原子核(粒子)の1つ1つに450万ボルトという高電圧でエネルギーを与えて“粒子ビーム”を作り出し、さらに、その太さを1ミクロン以下に収束させ、数十ミクロンの領域を自在になぞることが可能です。 これらの粒子が物質に照射された際には多彩でユニークな反応が生じます。例えば、近年、日本がアジアで初めて新元素・ニホニウムを発見したことがニュースになりましたが、これを生み出したのは粒子ビームが起こす“核反応現象”です。また、その他の多彩な反応を計測することで物質の本質を正確に知ることができます。この技術は「私たちはどう生まれたか」を解明する生命科学や「この世界はどのように成り立っているか」を問う宇宙論など最先端科学の研究に用いられるほか、新しい医療技術の実現や宇宙産業を始めとする様々な産業の発展に大いに貢献するものであり、私たちもこれらの広い視野にもとづいて日々研究に励んでいます。地球や、水の大循環(蒸発−雲の形成−降水−地表流−海)を思い浮かべる方もいるかもしれませんね。しかし、こうした表層環境だけではなく、地球のマントルにも相当量の水が含まれていることが、近年明らかになってきました。地震発生や火山爆発といった地球のダイナミクスも、この水の影響を考えることで解明が進むと期待されます。本学の工学部で唯一、地質系を標榜する私たちは、岩石と流体の相互作用による挙動を解明し、工学的に活用する研究を進めています。それは東日本大震災以降、持続可能なエネルギーとして再評価されている地熱エネルギーの探査であり、さらに深部の高温高圧岩体(超臨界地熱貯留層)を利用した未来型地殻エネルギーの探究です。 私たちの研究は、フィールドに出て“地球”を感じることから始まります。そこで得た調査結果や情報を室内実験/シミュレーションへと反映させ、地球物質・活動の真の姿を理解することにつなげています。人類と地球との調和ある共存、共生に向けた模索と試みが続く“環境の世紀”において、私たちにできることは何か、自問し続けていきたいと思います。研究室紹介目では見えない存在のもたらす多彩な現象を駆使して未来を拓く。“環境の世紀”において、地球と共に生きる技術を探究する。エネルギー環境コース土屋 範芳 教授

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