06Astronomical Institute, Tohoku University ブラックホールは重力が非常に強く、一度入れば光さえも出てこられない領域です。これまで発見されているブラックホール候補天体には、太陽質量程度のものと、太陽質量の100万倍以上という超巨大なものがあります。ブラックホール近傍は、地球上では実現しない極限的な物理実験場となっており、世界の研究者を魅了しています。 ブラックホール近傍では、高エネルギーを獲得した物質が様々な波長の光を放ち、また光速に近い速さで噴き出して“ジェット”と呼ばれる構造を作っているのが観測されています。それらは莫大なエネルギーで様々な天体爆発現象を引き起こしたり、銀河の進化に影響を及ぼしたりします。また宇宙最遠方天体、重力波源やダークマターの間接的な探査にも利用されています。東北大学天文学教室は、学際科学フロンティア研究所と協同して、「ブラックホール近傍で粒子のエネルギーはどれだけ高くなりうるのか?」「ジェットはいかにして駆動されるのか?」といった理論的問題の解明を目的として研究しています。 2019年4月10日、世界6カ所8台の電波望遠鏡を組み合わせたEvent Horizon Telescopeが超巨大ブラックホールの影とそれを囲む光の輪の撮像を成功させたというニュースが世界に広がりました(図1)。私もこの国際共同研究に理論解釈メンバーとして参加し、TOPICS 02観測された輪がブラックホール近傍の高温ガスによる光であり、その光がブラックホールの重力で曲げられた結果であることを確認しました。そして輪の大きさからブラックホールの質量が太陽の約65億倍であるという結論に達しました。次の目標は、このブラックホールが回転しているのかどうかを明らかにすることです。私も含めて理論研究者の多くは、ブラックホールの回転がジェット駆動の主要因と考えています。今後のEvent Horizon Telescopeのさらなる高感度の観測でジェット駆動の現場が撮像され、理論モデルと比較できるようになることを楽しみにしています。 超巨大ブラックホールを含む多くの銀河から、高エネルギーのガンマ線も観測されています(図2)。本研究室では、ブラックホール近傍で高エネルギーとなった粒子が引き起こす様々な素粒子反応を理論的に計算し、観測を説明する新しいガンマ線生成理論を見出しました。その反応で高エネルギーのニュートリノも生成されます。今後10年で電波やガンマ線の観測、さらには高エネルギーニュートリノの観測も発展します。続々と報告される観測データと本研究室の研究チームで考え出す理論的研究を組み合わせ、諸問題の解明に取り組んでいきます。解明に取り組んでいきます。ブラックホールが引き起こす高エネルギー現象天文学専攻 准教授當真 賢二(学際科学フロンティア研究所)
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