東北大学 大学案内 2025年度入学者用
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03ければなりません。この判断が非常に難しいのです。思い入れがあればあるほど、研究を続けたくなってしまう。しかし、“橋渡し研究”を中心に、アカデミアの外の企業・団体とともに研究をしていると、明確な目標と判断基準を持ち、決断することも大切であると学ぶことがあります。もちろん、諦めずに続けることで、ある日突然成果にたどり着くケースもゼロではないので一概には言えませんが、どこかでピリオドを打つ、または方向転換の決断を下すことは、研究者にとって難しいけれど重要な能力の一つであると考えます。 学外機関との共同研究について前述しましたが、日本の国立大学を取り巻く状況は、現在非常に危機的な状況にあると言わざるを得ません。日本の大学の研究力が右肩下がりになっている背景の一つに、2004年の国立大学法人化があります。自立した経営が求められるも、様々な制限により十分な資金を得ることは難しく、それまで交付されていた運営費は大幅に減額。研究を補助する若い人材が減り、対応が必要な業務に追われて思うような研究が続けられず、成果を出すことが困難になり、ますます厳しい状況に追い込まれていくという危機に、今まさしく■しているのです。 スマートフォンやAIに代表される新しい技術が世界を変えるという潮流にあって、技術開発力を持つ国が豊かになる、世界をリードしていくという考えはもはや常識ともいえるでしょう。ある意味で技術開発力が国家間競争のポイントになっているわけですが、かつてモノづくり大国と呼ばれた日本に、その力はほとんど残っていません。技術開発の最後の生命線である国立大学の研究環境が衰退しているためです。そこで、国が考案したのが、「国際卓越研究大学制度」です。 同制度は、諸外国の大学が公的な財政支援や民間企業等との連携・寄付・資産運用など、多様な財源をもとに研究環境を充実させていることに鑑み、日本においても大学の研究力を向上させ、世界トップクラスの研究者の獲得、次代を担う若手研究者の育成を図るため、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が見込まれる大学を「国際卓越研究大学」として認定し、大学ファンドによる助成を実施するものです。研究力、技術開発力、国家間競争力を取り戻し、日本にイノベーションをもたらすため、今一度アカデミアを支援しようというこの制度には、国立・私立あわせて10校の大学が応募。審査の結果、東北大学が唯一の認定候補として選出されました。 現在も、認定に向け様々な取り組みを行っているところですが、無事に認定を受けられれば、東北大学の研究環境は大きく改善され、私たちが向かっていく世界は変わると確信しています。これは、現在すでに研究職に就いている関係者はもちろん、これから受験される皆さんにとっても重要なトピックスの一つです。「国際卓越研究大学」応募を機に、私たちは大学が進むべき方向性を改めて検討し、大きな柱を2つ立てました。1つ目は、若い方に活躍していただくためのシステムづくりです。若手研究者が集まる、能力を開花させられる大学を目指します。2つ目は、国際化です。留学生の受け入れ人数を増やし、国際共修の環境を充実させ、国際的に評価され企業でも活躍できる博士号取得者を増やしたいと考えています。 東北大学のミッションは、皆さんの才能を伸ばすことです。東北大学の理念の一つ「研究第一」にもあるように、日夜研鑽する研究者の姿にふれることで学生自らも大きく成長できるよう、「国際卓越研究大学」認定を含めて研究環境を充実させていきます。また、建学以来守られてきた「門戸開放」の精神を受け継ぎ、さらに先へと進むため、DEI※宣言を行いながら、様々な方を受け入れていきます。試験制度の変更検討もそのひとつです。現在30%の割合で行っている総合型選抜枠を増やし、いずれは100%にしたいと考えています。ペーパーテストだけでは測ることができない思考力や判断力、意欲を持って、ぜひ東北大学の門を叩いていただければと思います。そして最後に、「実学尊重」の精神に則り、人口が減り縮小している日本社会、分断と格差が課題になっている世界を相手に、新しいイノベーションを提供する、人類に貢献する力を発揮できるよう、若い人材の育成により一層力を入れていきます。 東北大学は、皆さんを待っています。次の入学式でお会いできることを、楽しみにしています。※DEI(多様性・公正性・包摂性(Diversity, Equity & Inclusion)世界と日本におけるアカデミアの現状「国際卓越研究大学」唯一の認定候補に東北大学の3つの理念を受け継ぎ次代に向けた新たなフェーズへNIVERSITYRESIDENT.

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