FEATURE 皆さんは自分が産まれた時の体重をご存知ですか。2,500g未満で産まれた子は低出生体重児と呼ばれ、身体障害や発達遅延等のリスクが高いや生活習慣病等の発症リスクが高まること、低体重出生児が成長し出産した場合の子もまた低出生体重児になる可能性が高いことも明らかになってきています。私たちが現在研究しているテーマは、「低出生体重が及ぼす世代を超えた負の影響を解明 −次世代の健康リスクを軽減する新たな治療法開発への糸口−」。世代間で受け継がれてしまう危険因子を断ち切るため、その根本的なメカニズムの解明から取り組みました。 まずは、妊娠したマウスの血管を縛り血流を低下08Introduction to Research in Graduate School of Pharmaceutical Sciences.大学院薬学研究科医療薬学専攻 医療薬学講座臨床薬学分野東北大学大学院生命科学研究科分子生命科学専攻において博士前期課程修了。東北大学大学院論文博士(生命科学/医学)取得。その後、東北大学未来科学技術共同研究センターで研究を続け助教に。2011年より薬学研究科に所属し、東北大学病院 腎臓・高血圧内科を兼務し、医学系研究科の大学院生の研究指導も担当。2019年より現職。2024年度東北大学優秀女性研究者賞「紫千代萩賞」受賞。TOHOKUUNIVERSITYWORLD-CLASS RESEARCH.低出生体重児が負う健康リスク、その世代間連鎖を断ち切る。とされます。さらに、成人期・老年期における肥満させることで、低出生体重モデルマウスを新たに確立。通常のマウスと比較すると、胎仔・出生仔時に低体重であり、腎臓の発達が未熟であるうえ、成長してからも腎臓内にある糸球体の障害が確認されました。次に着目したのはメスのマウス。低体重で産まれたメスマウスが妊娠した際の胎仔の健康状態を評価すると、通常より小さく、低体重は次世代に受け継がれることがわかりました。またその原因が、臓器内の細胞代謝変化を伴う胎盤の形成不全と肝臓肥大不全であることも突き止めました。地道な研究で判明したメカニズムを道標に、私たちはタダラフィルという薬を用いた治療を実施。この薬は血管を拡張させることで血流を増加させる作用を持ち、妊娠中のマウスに投与すると、胎仔の発達不全が改善され、出生時体重や糸球体障害の軽減、成体期の高血圧軽減に効果があることが判明しました。 もともと私が本研究に至ったきっかけは、約20年前の透析病院を開業している医師との出会いでした。透析療法を進めるうえでの問題点を議論するうちに、「腎臓の状態を正確に反映するマーカーがない」「一人ひとり異なるはずの適切な透析量を測るマーカーを開発したい」という現状・目標が明確になり、共同で研究を進めることになったのです。その頃から私は腎臓に深く興味を抱き、「腎臓疾患には対症療法しかなく、産まれた時から発症リスクが高い人がいるのならば、産まれる前にそのリスクを下げたい」と考え始め、今回の研究テーマに行き着きました。 今後の目標は、2034年までに、産まれた直後の低出生体重児の未熟な臓器を成熟化させる治療薬を開発すること。本研究で母体を通じた胎児への治療の有用性は見えましたが、低出生体重児は早産等により十分な治療を行えないケースが少なくないため、新生児期に投与できる薬が必要なのです。開発には多くの課題もありますが、研究者間の情報共有が盛んで、医学部や大学病院との連携が密であり、東北メディカル・メガバンク機構の膨大なデータを活用できる東北大学の研究環境を活かし、一歩ずつ着実に進めていきたいと思います。東北大学の研究世界最高水準の研究佐藤 恵美子准教授PROFILEINTERVIEW04
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