2019年度 筑波大学入学案内
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精密有機合成 有機化合物は三次元構造をもっているため、その多くは空間における原子の配列だけが異なる立体異性体から成っています。医薬品は立体異性体により効力が異なるため、その合成には、立体異性体や位置異性体などを自由に作りわける手段である精密有機合成が不可欠です。厳密に決められたある特定の立体構造をもつ化合物を正しい分子設計理論にもとづいて合成するのが、有機合成化学です。生物現象を化学の目で見る 生物のかかわる現象の多くは化学物質によってコント ロールされています。個体内あるいは個体間の情報伝達物質(ホルモン、フェロモンなど)や生物内に存在する様々な生物機能物質(生物毒、抗生物質など)を化学の目を使って研究する分野が生物有機化学や生物無機化学です。化学はますます力をつけてきており、生命現象を分子レベルあるいは分子集合体レベルで解明できるようになってきました。これらの研究は、我々の福祉に直接関わる医薬品や農薬などの開発研究を支える基礎を提供するとともに、生物現象をいっそう深く理解するための大切な情報となります。ソフトマターの物理化学 人類は古来、物質を「道具」の材料として利用してきました。その多くは、天然高分子を除くと、セラミックスや金属などの固い物質であり、高分子や液晶に代表される「やわらかい物質(ソフトマター)」の利用が本格化したのは20世紀の後半になってからです。たとえば、代表的なソフトマターである液晶を抜きにして現代の暮らしを想像することは難しいでしょう。また、私たちの体を作っている生体膜も代表的なソフトマターです。ソフトマターは、たくさんの分子が自発的に集まって複雑かつ柔軟な構造を作り出し、固い物質にはない性質を示すことを特徴としています。この仕組みを解明し、制御する方法を見つけることは、新材料の開発だけでなく生命の仕組みを明らかにすることにも繋がっています。超高速化学反応の追跡 物質と光の相互作用としては、ホタルの光、アサガオの開花、また、目で物をみる現象である視覚等の多くの身近な現象があります。分子は光エネルギーを吸収して励起状態になり、反応活性になります。レーザー光を用いると特定の分子のみを狙い打ちして高速で反応を起こすことが可能です。ごく短い時間内(ナノ秒ns = 10-9s、ピコ秒ps= 10-12s)の吸収スペクトルや蛍光スペクトルの変化を測定し、励起状態や反応中間体の振舞を明らかにし、超高速反応も追跡することができます。ワラビの発癌物質の構造超高速光化学反応追跡のためのレーザー分光システム7874

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