2019年度 筑波大学入学案内
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学類担当教員の研究紹応用理工学類が係わる研究分野介ゆで卵の科学(応用物理主専攻 白木研究室) 82高精度計測・分析先端医療 ゆで卵のプロセスを理解することは、現在の生物物理学者にも難問です。 卵白を100倍に希釈した溶液を加熱すると白濁します。加熱によってタンパク質が会合して大きくなり、光が通らなくなるためです。これをタンパク質凝集といいます。 それでは、この卵白溶液に、少量の塩や砂糖を加えておくと、どうなるでしょうか? 塩化ナトリウムを入れると早く白濁しはじめます。塩を水溶液中に入れるとイオンに分かれるため、静電的反発で分散していたタンパク質が遮へい効果によって会合しやすくなるからでしょう。塩の種類を変えて、チオシアン酸ナトリウムを加えておくと、90℃で30分間加熱しても全く固まりません。おどろくべき効果です。これは塩などがタンパク質の水和状態に与える影響力の強さ(ホフマイスター系列)で説明できます。アミノ酸の一種であるアルギニンを加えておいても固まらなくなりますが、これはアルギニン・テクノロジーという新技術の応用です。 砂糖をひとつまみ入れてみると、大きな粒になります。砂糖はより水和しやすい性質があるため、タンパク質同士が会合しやすくなるからでしょう。このメカニズムは溶液科学で説明ができそうです。  ゆで卵のようなありふれた現象から、さまざまな科学の法則が取り出せるのが研究の醍醐味です。タンパク質凝集の研究から、水に溶けにくい化合物をよく分散させたり、立体構造を任意に制御できる人工シャペロンを開発したり、アルツハイマー病の原因分子の会合を制御したり、抗体の薬を濃縮させたり、さまざまな応用が展開しています。希釈した卵白を加熱した様子。まだ私たちの知らない、多様な科学の法則が関係している。プラズマナノ加工 / 光源 / エネルギーワイドギャップ半導体78

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