筑波大学案内 2026
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ています。医薬品は立体異性体により効力が異なるため、その合成には、立体異性体や位置異性体などを自由に作りわける手段である精密有機合成が不可欠です。厳密に決められたある特定の立体構造をもつ化合物を正しい分子設計理論にもとづいて合成するのが、有機合成化学です。精密合成された有機分子による低分子認識の様子生物現象を化学の目で見る 生物のかかわる現象の多くは化学物質によってコントロールされています。個体内あるいは個体間の情報伝達物質(ホルモン、フェロモンなど)や生物内に存在する様々な生物機能物質(生物毒、抗生物質など)を化学の目を使って研究する分野が生物有機化学や生物無機化学です。化学はますます力をつけてきており、生命現象を分子レベルあるいは分子集合体レベルで解明できるようになってきました。これらの研究は、我々の福祉に直接関わる医薬品や農薬などの開発研究を支える基礎を提供するとともに、生物現象をいっそう深く理解するための大切な情報となります。有機化学を基盤とした生物現象の理解・制御66大気物理化学の実験研究 大気環境における諸現象の理解のためには、気相、液相、そしてその境界相を含む多相(マルチフェーズ)で起こる物理化学過程のすべてを考慮する必要があります。大気に浮遊している雲粒やエアロゾルの気体―液体の境界(気液界面)や内部で起こる化学反応を解明することは、地球の気候変動を理解する上で重要なテーマです。また、ヒトの肺胞などの生体表面で起こる化学反応メカニズムを解明することは、大気汚染問題に直結します。地球の気候変動や大気汚染の問題の解決に向けて、独自の実験手法を用い、分子科学的なアプローチで研究を行っています。界面の分子構造固体と気体や固体と液体など、相と相の境界面とその近傍を界面と呼びます。相の内部(バルク)と界面では、分子を取り巻く環境が異なっています。一方、我々の周りにある様々な物体や生体組織では、界面が性質や機能を決める重要な要因である例が多く存在します。そのような例として、固体触媒上や電極上で起こる化学反応、生体膜を通した生体組織間の物質の移動などが挙げられます。レーザー光を使った最先端の測定技術(レーザー分光技術)を使えば、界面における分子の構造・配向・運動性の情報が得られます。今はじめて、界面の様子が分子レベルで解明されつつあります。

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