福井大学 VIEW BOOK 2022
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School of Engineering 工学部蚕に学ぶエコ素材開発蚕の紡糸メカニズムは、実は未だ謎に包まれています。彼らは体内にタンパク質の水溶液を蓄え、一定の張力をかけながら口から吐き出して糸にするのですが、人間が同じ張力をかけられる機械を使って同じ水溶液から紡糸しても、はるかに物性の低いものしか作れません。蚕の体の中では、非常に緻密なタンパク質の構造転移や分子の凝集が起きているようです。このメカニズムを解明できれば、人工の、あるいはリサイクルの絹製品を、従来より低コストで製造することが可能になります。絹は医療材料として人体にもよく馴染み、かつ成形加工性も高い素材です。将来的にはポリエステルの代替として利用できる可能性も秘めています。石油を使い巨大なプラントで素材を作る人間。対して、桑を食べて小さな体で絹を作る蚕。私たちが彼らに学ぶことは多いはずです。ものづくりの先生は、虫。鈴木 悠工学部 物質・生命化学科 准教授素粒子物理学の標準理論に修正を迫る?岐阜県飛騨市の地下1000メートルにある旧神岡鉱山の跡地は、ニュートリノ研究のメッカ。ノーベル物理学賞を受賞した研究を支える「スーパーカミオカンデ」と同じ坑道内に、福井大学と大阪大学などが共同で運営する実験装置「CANDLES」があります。ここでカルシウム48原子核の「二重ベータ崩壊」の観測実験に取り組んでいます。「二重ベータ崩壊」は、ニュートリノを放出するときとしない場合があります。ニュートリノを放出しないベータ崩壊は、現在の素粒子物理学の標準理論を超えた、発生確率の極めて低い現象です。この観測に成功すれば、現在の標準理論に修正を迫る大発見です。宇宙が「物質」だけの世界で、「反物質」が消滅してしまったのはなぜか? 宇宙誕生の謎を解明する手がかりが、この研究から得られるかもしれません。地下1000メートルで、宇宙観測小川 泉工学部 応用物理学科 准教授で、牧草が育たず、土壌が劣化し、さらには砂塵による健康被害も懸念されています。私は水文学のひとつである地表面からの蒸発量と土壌浸透の観測から始めました。そして、日本で土砂災害防止などに用いられる法面の緑化工法をモンゴル用にアレンジし、さらに、羊毛にフルボ酸という土壌改良材を組み合わせた緑化資材を試作しています。ポイントは、現地で調達できる羊毛を使うこと。持続可能な取り組みで、緑の大地を取り戻したいと思います。す。さらに、IoTの時代を迎えて、コンピュータ以外の様々なものに暗号が不可欠となりました。私はICカードや小型センサーなどでも効率よく動作しながら、秘密保護と改ざん検知を同時に実現する暗号の研究開発に取り組んでいます。暗号の数学的なツールは基本的に加減乗除の四則演算です。その限られたリソースをパズルのように組み合わせ、より安全かつ効率的な暗号の形を探る作業は、機能美の追求にも通じます。 TO MY LAB31UNIVERSITY OF FUKUI

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