福井大学 VIEW BOOK 2023
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准教授磯崎康太郎ISOZAKI Kotaro国際地域学部国際地域学科(専門分野:19世紀ドイツ文学)1519世紀のヨーロッパは、世界史上、革命が連なる混沌とした時代でした。私が研究対象としているドイツ語圏においても、ナポレオン支配下で19世紀の幕が開き、1848年革命の連鎖により自由主義とナショナリズムが高揚、さらには帝国主義時代へと進んでいきます。こういった国家が激変する時代には文学さえもが政府の厳しい検閲を受け、作家は比喩を使ってでもこれをかいくぐろうとしました。当時の社会問題への啓発や人権の尊重を文学のなかから訴え、この時代の問題に真正面から向き合ったのです。私はこの時代の文学を考察することで、現代にも通じる社会問題の糸口を見つけ出す試みを行っています。学問分野から見る学問分野150年前の女性の姿からコロナ禍の現代が見えるドイツ文学ではゲーテやカフカが有名ですが、私は19世紀後半のドイツ文学から当時の女子教育やワークライフバランスのあり方を読み解いています。この時代の文学作品は、牧歌的な農村の日常生活のなかに政治的な皮肉を込めたり、かつてのペストの大流行を題材に、実は三月革命の混沌を描いたり、また良妻賢母の思想によって社会進出が阻まれ、家庭の一角で仕事をせざるを得ない女性たちが直面するさまざまな■藤を描いたりしています。私たちの日常との比較が許されるならば、コロナ禍で在宅勤務が強いられたり、「わきまえた」女性が求められたりする世相に通ずるように感じませんか。このように、現代社会に対しても警鐘となるメッセージを与えてくれることが、抑圧された状況下で教育や政治、社会問題の解決を模索していた19世紀のドイツ文学の面白さであると言えるでしょう。ドイツ文学19世紀のドイツ文学から現代に通じる社会問題を読み解くことができるか

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