東京大学 大学案内 2026
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藤井 輝夫東京大学総長  私たちが生きている世界はますます複雑になり不安定さを増しています。気候変動や国際紛争、飢餓、貧困、感染症など地球規模の問題のみならず、それぞれの地域における未曽有の困難や分断の顕在化など、課題が次々と生まれています。これらの課題は、既存の手法や態勢だけでは解決できません。新たな発想での学知の活かし方や方法知の開発が、必須のものとして求められています。これを専門的かつ多面的、複合的、そして根本的に究め提供できる場こそが大学であると私たちは考えます。 東京大学は、未知と向かいあい、問いかけ、知ろうとする「対話」を大切にします。対話は、他者の小さな声にも耳を傾ける多様性の尊重や、社会との大きな連携にもつながります。このような対話を通して形作られる信頼があってこそ、地球環境のような人類共有の財産を皆で守っていくとともに、社会に広がる閉塞感を乗り越えることができます。 人類が抱えるこうした課題に積極的に取り組む人材を育てることは、東京大学が社会から負託された使命です。多様な学問に基づく知を基盤に、学ぶものそれぞれがその好奇心を沸きたたせ、仲間との対話を豊かに織りなす機会を充実させるなかで、他者を尊重する精神と創造性を育みます。また、自らの学びが社会の中でどのように位置づけられ、また活用できるのか、これを知るための総合的な学びの機会も用意したいと考えています。 本冊子に紹介されているように、東京大学は教育・研究面はもちろん構成員の面でも多様性豊かで、さまざまな国や地域から、異なる考え方やバックグラウンドを持つ学生が入学しています。大学には、そうした多様な人びととの出会いの機会があります。さまざまな背景や特性を持つ人びとが集う環境で学ぶことは、学問を深め、学ぶものそれぞれが自らを高める絶好の機会です。その学びの中で、学内の同級生や先輩、教職員だけでなく、国内外の多様な人びとと対話し、構築したネットワークは、皆さんの人生にとって貴重な財産になることでしょう。 こうした大学での学びへの備えとして私たちが最も大切だと考えているのは、単に知識を量的に増やすことではなく、得た知識を組み合わせて創造的に使いこなす力や、未知の課題に遭遇した時に自らに不足する部分を積極的に学ぶ姿勢を身につけていることです。東京大学ではこうした力や、主体的な学びへの強い意欲を持った学生を幅広く受け入れるために多様な入学試験を実施しています。 全国各地、世界各国からやってきた皆さんの誰もが安心して学べるよう、今後も学びの機会を一層充実させていきたいと考えています。そして教育研究の水準をさらに高度なものとすることに努め、東京大学に入学した学生が、卒業するときに、「東京大学で学んでよかった」と心から思えるような大学にしたいと考えています。 東京大学で学問の扉を開きましょう。皆さんの挑戦を心から歓迎します。1877年に創立された 我が 国最初の国立 大学である東京大学は、国内外の様々な分野で指導的役割を果たしうる「世界的視野をもった市民的エリート」(東京大学憲章)を育成することが、社会から負託された自らの使命であると考えています。このような使命のもとで本学が目指すのは、自国の歴史や文化に深い理解を示すとともに 、国 際 的な広い 視 野を持ち、高 度な専 門 知識を基 盤に 、問 題を発 見し、解 決する意 欲と能 力を備え、市民としての公共的な責任を引き受けながら、強靭な開拓者精神を発揮して、自ら考え、行動できる人材の育成です。 そのため、東京大学に入学する学生は、健全な倫理観と責任感、主体性と行動力を持っていることが期待され、前期課程における教養教育(リベラル・アーツ教育)から可能な限り多くを学び、広範で深い教養とさらに豊かな人間性を培うことが 要求されます。この教養教育において、どの専門分野でも必要とされる基礎的な知識と学術的な方法が 身につくとともに、自分の進むべき専門分野が何であるのかを見極める力が養われるはずです。本学のカリキュラムは、このように幅広く分厚い教養教育を基盤とし、その基盤と有機的に結びついた各学部・学科での多様な専門教育へと展開されており、そのいずれもが大学院や研究所などで行われている世界最先端の研究へとつながっています。東京大学の使命と教育理念東京大学アドミッション・ポリシー未知なるものとの「対話」の場へ未知なるものとの「対話」の場へ

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