東京大学 大学案内 2026
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PROFILE1993年1995年1997年2006年2006年2009年2015年2020年東京大学教養学部理科一類入学東京大学理学部数学科進学東京大学理学部数学科卒業Columbia University, Ph.D.Rice University, G.C. Evans InstructorUniversity of Iowa, Assistant ProfessorUniversity of Iowa, Associate ProfessorUniversity of Iowa, ProfessorPROFILE2016年2021年2021年東京大学教養学部理科一類入学東京大学文学部人文学科英語英米文学専修課程卒業東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻英語英米文学専門分野進学東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻英語英米文学専門分野修了2024年アイオワ大学トポロジーグループ本郷キャンパス正門前の喫茶店「こころ」:授業前は必ずここでテクストを読んでいた指導した学生の博士号授与式で学部の卒業論文はPhilip Rothの P o r t n o y ’s C o m p l a i n t (1969)を、修士論文はCarson McCullersの主要作品を取り扱った本郷三丁目駅にある「加賀屋」:この居酒屋でさまざまなことを語り相談したも自分で作ってみる、何も見ないで理解したことを紙に書いてみるなどです。今、アイオワ大学で大学院生の指導をしているとあの頃の自分と同じ状態の人がたくさんいてニヤリとしてしまいます。河東先生は私が米国に行って結び目理論を学ぶことも後押ししてくださり現在の自分があると思っています。 東大にいると研究費が潤沢で世界から一流の数学者が訪れ講演を生で聞くことができますが、それが普通でないと知ったのは米国の地方都市に職を得てからでした。数理図書館の充実度も世界最高です。東大は最高レベルの研究者や将来の研究者との交流を通し私を成長させてくれたと感謝しています。 少なくとも私は、東京大学英文科で学んだ時間は自らの過去を理解する役に立っていると言える。教養学部理科一類で入学し、英文科に転学し、アカデミアに進むと考えていたが、結果として社会に出て果てには二つの仕事を抱えているように、十年前の、あなたたちの年齢の頃には想像していなかった変化を経験したが、自らの人生がこうであると相対的な言葉を理解することができるようになったと思う。なにもそれが目指すところだとは言わないが、自分の過去が人生の腑に落ちるというのは心地よい感覚でもある。 過去がいつやってくるのかは誰にもわからない。なので、その時のために備えておく必要がある。自分が学びたいと思えることをとことんまで考えておくことは助けになるし、それを叶えさせてくれる懐の深さがこの大学にはある。それに世の中での生き易さも少しはついてくる。 東京大学での収穫は、素晴らしい先生方や友人に出会うことができたことです。私は、中学生の頃から数学の研究をする職業につきたいと思っていました。東大教養学部では線形代数と微積分を習いましたが、身近にずっと専門的な本を読んでいる人もかなりいて感心しまた刺激も受けました。自分でも背伸びをして高価な本を買って勉強しようと試みましたが今から振り返ると浅い理解しか得られなかったし、分からないところを人に聞いて教えてもらったり、もっとじっくり時間をかけるべきだったと思います。 東大の先生方は皆、国内外で有名な数学者ばかりなのだ、という事実も友人が教えてくれました。その中の一人の河東泰之先生にルベーグ積分の授業を受けたのが始まりで今でもお世話になっています。河東先生は、講義を何もノートなど見ずにするとか、授業が始まる前に部屋の外で待機していて時間通りに授業を始めるとか、複素関数論の授業ではアールフォースの本を全部終わらせてしまったなど圧倒されるエピソードを聞いていました。 それまでの私は、定理の証明とか読んでいて、ぼーっと難しいなーと感じていても、自分が何をわかっていないのかを深く突き詰めようとはしていませんでした。河東先生のセミナーで学んだ大切なことは数学の本や論文を読む方法です。分かったと本当に思えるまで何回も読んで考えて、質問したり参考文献などもあたり、例など 大人になるということは、過去をもつということである。その過去は喜ばしい思い出でも、嘆かわしい記憶でもありえる。上京、挫折、結婚といった社会的な儀礼でもよいし、後悔や苦悩など内省的な活動をもたらす出来事でもよい。ささやかな暮らしに基づく経験でも、歴史的な文脈を反映した非個人的な体験でもよく、大小を問わず、一度しか起こらないとは限らない。「過去」がなだらかな変調をもたらすのか、やにわにそれまでの生活を転覆させるのかは一様でないが、しかし、それによって引き起こされる変化は成長として理解される傾向にある。そうであるとするならば、自らの過去を引き受けた結果として、自らの過去を始点として伸びていくのが、その人の人生と呼べるのかもしれない。 高校生のあなたたちには、そのような過去をもたない、あるいは、経験をしていても、そのようには意識していない人が大半であろうと思う。おそらく見据えているのは過去などでなく、未来であろう。あなたたちは、将来どのように生きていくのかと想像を膨らませられる時期にある。そして、この文章を読んでいるならば、進学を考えていることになる。 就職活動や学歴や周りの大人たちを喜ばせるために東京大学に進まなくてもよいが、いくつかの点で利点はある。一つには、ノスタルジアに回収させることになく「過去」と向き合う精神的思考の忍耐力が得られる。もう一つには、「過去」を踏まえて変化する際に、選択肢と運が与えられ、これは世間的な評価によるところが大きい。アイオワ大学教授株式会社NTTドコモ、アイ・ピース株式会社(兼務)THE UNIVERSITY OF TOKYO 202656川室 圭子 かわむろ けいこ岩田 凌 汰 いわた りょうた理学部数学科で得たことこれからの人生のために先輩からのメッセージ

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