富山大学 理学部 学部案内2019
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研究者レポート14 あなたは、植物のどの部分が自身の重さを支えているか考えたことはあるだろうか。なぜ植物は風に耐えられるのか。篠笥さんはこの疑問を解決すべく、植物を過重力状態で育てる実験を通して、「茎を丈夫にする仕組み」について研究している。■研究方法 まずプラスチック容器の中に成長段階のシロイヌナズナを入れ、「過重力栽培装置」とよばれる回転式の機械の中で育てる。この装置は、回転することによって重力の大きさを変えることができる。篠笥さんはこの装置で3G(過重力)の状態にして研究している。 通常の重力下で育てた状態とどのような違いが出るのかを、維管束間繊維と木部(茎を支える組織)の発達を見ることによって調べる。その調べ方としては、育てたシロイヌナズナを生きた状態のまま固定液の中に保存し、解析するときに取り出して樹脂で固める。その後、顕微鏡で観察するための試料を切り出す。この試料の薄さは0.8 μm(1μm=0.001mm)。またその試料をプレパラートにのせて明視野顕微鏡で観察・撮影し、維管束間繊維や木部などの組織の大きさを判断する。次にGIMP2.8というパソコンのソフトを用いて撮影した画像に色を付ける。この色付けした画像のことをセグメンテーション画像と呼ぶ。細胞1つ1つに対して手作業で色付けをしているので、1枚の画像を完成させるのに少なくとも1週間の時間が必要であり、研究の大部分がデータ処理に費やされる。今のところ過重力状態では多くの組織で増加傾向を確認できたが、減少している組織もあり、まだまだわからない事が多いとのこと。しかし篠笥さんは研究に手ごたえを感じており、違いの解明に向け日々研究を進めている。■もっと知りたい 篠笥さんは幼いころから自然と触れ合う機会が多かったため生物への興味が強く、富山大学理学部生物学科に入学することを決めた。この研究テーマを選んだきっかけは、篠笥さんが学部4年生の時に、唐原一郎教授から提案されたテーマの中で1番やりがいを感じ、植物の進化の過程を知ることができそうで面白そうだと思ったからだ。また卒業研究を進めていくうちに、より深く追究したい、より多くのデータを集めて比較したいと思うようになり、大学院でも生物学を続けている。■休日は山で匍匐(ほふく)前進 研究の息抜きは山の中の散策だ。登山ではなく、散策。休日は暇さえあれば1日中、山の中にいるという篠笥さん。しかし、ただ歩くだけでなく、匍匐前進をしているとのこと。その甲斐あって過去にはホンゴウソウという植物を富山県で初めて発見した。しかし、本命はツツナガクモタケという虫草の一種。篠笥さんは、この虫草を見つけるため、また次のお休みも匍匐前進をするのだろう。インタビュアー篠笥 公隆〈ささき きみたか〉大学院理工学教育部修士課程生物学専攻1年出身地:新潟県好きな植物:ホンゴウソウ好きな食べ物:ソースカツ丼過重力栽培装置小さな世界に魅せられてセグメンテーション画像(■:維管束間繊維、■:木部)これらの研究紹介記事は以下の講義で作成したものです。「科学コミュニケーションII」主講師:元村有希子 (毎日新聞社科学環境部長)担当教員:川部 達哉(数学科) 島田 亙(生物圏環境科学科)
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