富山大学 都市デザイン学部
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久保田●ある程度イメージ共有ができましたので、次のステップとして持続可能な社会について考えたいと思います。持続可能な社会の実現に何が必要なのか。どんな状態だと不可能なのか…?矢 口●当たり前ですが「今さえよければ」、「自分さえよければ」という考えでは駄目でしょうね。つながること、循環することで得られる価値を探すことが大事。先を見据える気持ちが必要ですね。阿久井●全国的な傾向ですが、若者が街に出ない、外出しないという現状があります。これでは持続可能な都市は難しい。若者を街に出す仕組みづくりをしていくことも必要だと思います。畠 山●確かに今、中心市街地に若い人が住んでいないですね。若い人はみんな郊外で家を建ててクルマで移動していますから。阿久井●街なかは高齢者ばかり。20年後には空洞化が起こりますね。久保田●持続可能な社会にはある程度の多様性が必要。でも今の富山は皆が似たようなライフスタイルで、そこから外れると暮らしにくい…。今後は3世代同居も、単身も、学生も、外国人も、いろんな人が多様性を維持したまま暮らせる環境づくりが必要なのではないかと思います。川 﨑●私が住んでいる地区には、まだ非常に古い考えをもった人がいます。閉鎖的な社会には新しい人が入りにくい。そういう面をもっとオープンにしていけば人の流れが良くなると思うのですが…。畠 山●確かに多様性も大事です。でも地方色は残っていていいと思います。そのあたりのバランスを図る政策が重要ですね。阿久井●富山は全国の地方都市の中では突出した存在。自然と都市がこれだけコンパクトにまとまった都市は他にないです。このポテンシャルをもっとうまく出していけたらいいのですが。久保田●人口の観点ではどうですか? 人口減少が加速しています。畠 山●全国には大学を増やして進学率を上げようとしている都市もありますが、大学進学率が上がると女性の出産年齢が上がってしまうというデータがあります。学内に託児所を作って学びながら子育てできるようにするとか、根本的な改革をしないと人口は増えていかないと思います。久保田●東京はその典型。大学進学率は全国トップで、地方からの進学も多いけれど、多くがそのまま東京で就職するので出生率は最下位。地方の人が集まっても、東京で子どもの数は増えないですね。畠 山●それは大都市の宿命ですね。そのためにも地方が子育てしやすい街づくりをしていかなければ人口減少は止まらない…。久保田●一方で、持続可能な社会を構築するために、富山が今後も継続していくべきことはありますか?川 﨑●他県と比べて富山は環境保全の意識は高いと思います。河川、大気、土壌、どこもいいバランスで環境が保たれ、かといって産業発展が妨げられてない。このスタンスはずっと維持されればいいですね。久保田●自然との共生という観点で、富山は持続可能な都市のモデルになるポテンシャルがあると言えそうですね。実際、富山市は2008年には国の「環境モデル都市」に、2011年には「環境未来都市」に選ばれ、2014年にはロックフェラー財団から「100のレジリエント・シティ」に選ばれるなど、高い評価も受けています。今後もこうした取組みを推進し、他の都市に示していくことが重要です。久保田●さて、ここからは富山が持続可能な都市であるための要件として防災面、技術面、文化面、この3つの観点で、少し専門的な視点も入れながら議論を深めていきたいと思います。では防災面から。川 﨑●まずは砂防工事。これだけ急峻な山が迫り、川が一気に注ぎ込むという自然環境は、言い換えればすぐ近くにある脅威でもあります。富山にいる以上、砂防工事は終わりのない事業だと思います。安 永●数年の時間スケールで考えるなら土砂災害、寄り回り波、豪雨・豪雪でしょうね。数10年以上の時間スケールになると、火山噴火や地震などの問題が出てきます。これからは特に気候変動に伴う環境変化に柔軟に対応していかなければならないと思います。久保田●一般的に富山は自然災害が少ないイメージがありますが…。川 﨑●安心感があるのかも…。たぶん大丈夫という思いがあるから防災意識が低いのかもしれないですね。阿久井●富山は豪雨で街が浸水する心配はないんでしょうか?久保田●中心市街地では地下に巨大な貯水トンネルを造る工事を進めています。完成すれば豪雨になっても、浸水する可能性は格段に減ると思いますよ。防災面については、砂防や貯水トンネルのような大規模な対策で大災害に備えていますが、同時に人々の防災意識を高める方策を考えていかなければなりませんね。その他、技術面からみてどうですか?川 﨑●最近、団地などでは保水効果の高い緑地を増やす工事が増えていると聞きました。久保田●グリーンインフラですね。コンクリートのグレーインフラに対する言葉。自然作用をインフラ機能として積極的に活用しようとする試みで最近注目されている技術ですね。安 永●エネルギー資源としては水資源が豊富にあり、水素やメタンハイドレート、地熱などの可能性もあります。エネルギーの種類としてはそれなりにバラエティに富んでいると言えますね。【STEP2】分析と発想持続可能な社会とは?妨げるものは…?(次ページに続く)【STEP3】問題設定富山が持続可能であるための要件は?(地球システム科学科 川﨑)高低差4000mの 多様な自然環境。1(都市・交通デザイン学科 阿久井)自然と都市が、 うまく共生している。2都市デザイン学部 デザイン思考ワークショップ3
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