電気通信大学 大学案内 2022
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7 石田研究室で扱うのは材料科学という分野である。将来コンピュータやスマホなどの電子機器に使えるような材料の研究を進めている。材料科学はソフトウェアや情報通信の開発とパラレルで進むことで実用化されていく。石田研究室では10年後、100年後、さらに先の未来に実用の可能性を有する新しい材料の開発、あるいは、新しい材料の使い道の開拓を含めた研究に取り組んでいる。中心は新しい材料になりうる「単分子磁石」の物性研究だ。「分子は記憶することができるのか?」を研究の主眼としている。結晶中の分子・原子・イオンの配置を設計し、電子のゆがみを生じさせ、ある運動をする電子をつくる。そうすると分子が磁石のように振る舞い、情報を記憶する状態になるのだ。同じ環境で分子がいくつかの状態を持つ、というのはこれまでの科学の歴史にはなかったこと。こういった研究が進めば、情報を記録する磁気デバイスの記憶量を増やすことが可能になり、コンピュータの小型化にも貢献する。そんな新しい分子を有機合成によって創出、物性を測定し、理論を明らかにするのがこの研究室の特色だ。石田研究室はこの分野の学問をけん引する研究室で、世界でも3番目の早さで磁石になる有機物質を発見している。また有機化合物と遷移金属イオンの複合物質の研究にも力を入れ、世界最大の保磁力を持つ磁石の開発に成功した。 「面白い形の分子を見るとわくわくします」と語るのはこの研究室に所属する高野さんだ。彼女は鉄のスピンクロスオーバー現象に注目し、室温付近で磁性の転換が起きる錯体を戦略的に合成する方法を研究している。コンピュータ化学で分子を設計し、実験で合成するが、それまで知られた学説とは違う結果となった。「予想と反する結果が出た。そこから新しい知見を見出すのが研究の醍醐味ですね」と石田教授は添える。石田研究室では機材類に触れる機会も多く、学生は新しい技術の習得にも積極的だ。教授は「技術はどんどん進化し、研究手法も目まぐるしく変わっていく。だから技術の習得に抵抗のない人材になってほしい」と話す。実験を重ね、積極的に技術を習得し、まだどこにもない分子のデザインに挑戦する。ここは未来の材料が生まれていくクリエイティブな化学を扱う研究室だ。どこにも存在しない材料を創る実験室は未来をクリエイトする場です私の研究が新しい学説として世界に知られていく日を夢見ています科学に広く興味を持ち、自らの手を動かそう世界の産業を導く人材になれるはず光子計測検出型単結晶X線回折装置。有機化合物の単結晶をX線を用いて解析する貴重な機材。石田研究室に所属する学生は、幅広い機材類を取り扱う高野さんは「配属されてすぐ先生から本を借りました。研究者と対等に議論をしたいからです」と意気込む。一方、石田教授は「何かをつくりたいという積極的な姿勢を歓迎します」と熱意に応える── 石田 尚行 教授高野 莉奈 さん 情報理工学域 Ⅲ類(理工系) 化学生命工学プログラム 4年/神奈川県 私立中央大学附属横浜高等学校 出身情報理工学域 Ⅲ類(理工系) 化学生命工学プログラム 石田 尚行 教授材料科学の研究。コンピュータ類、電子機器や先端テクノロジーに特化した付加価値の高い材料の開発・研究を行う。測定や解析の装置類の操作手法を習得し、材料科学を中心にした科学人材の育成にも力を入れる。応用化学、材料科学、機能性材料、ナノテクノロジー、新素材、ラジカル、有機化合物、希土類、磁気物性、分子性磁性体、単分子磁石、ナノ磁石、コンピュータ化学、合成実験、X線結晶構造解析、ダウンサイジング石田尚行研究室Keywords

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