※ ARIM 事業データ利用報告事例Ⅲ類( 理工系 )物理工学プログラムⅢ類( 理工系 ) 物理工学プログラム 谷口研究室1 1谷 口 淳 子 准教授Junko Taniguchi量 子流体 4 H e の物 性研 究を通じて、新たな学問体系を創造 するナノ細孔試料 ※超流動の観測手法希釈冷凍機音叉型水晶振動子ABCDProfileナノ細孔中で液体ヘリウムの超流動応答を観測するために、数10 mK 程度の極低温に試料を冷却します。注射前にアルコール消毒すると冷たく感じるのは、蒸発する際に潜熱を奪うからです。希釈冷凍機では、3 He を 3 He- 4 He 混合液体の 3 He の薄い相から強制排気し 100 mK 以下の低温を実現します。超流動応答はナノ細孔を振動させたとき、その中に充填した液体ヘリウムが振動に追随するかどうかでわかります。水晶振動子は Q 値が高く、共振周波数を非常に高感度で測定することができるため、ナノ細孔中に生じた微小量の超流動成分も検出することができます。1999 年東京大学理学部物理学科卒業。2001 年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。2004 年同博士課程修了。電気通信大学電気通信学部助手、同助教、アルバータ大学訪問研究員などを経て、2019 年より現職。当研究室では、量子効果や揺らぎが顕著になる低次元系の量子物性について研究しています。主な研究対象はヘリウムです。絶対零度まで液体として存在し、低温で超流動状態(粘性が消失し、抵抗なく流れることができる )となる不思議な物質です。このヘリウムを、直径が2〜3nm 程度のナノ細孔に閉じ込めると、断面内に波が十分広がることができなくなり、奇妙な超流動現象が現れます。当研究室では、この奇妙な超流動現象を解明するために様々な孔径・細孔長のナノ細孔にヘリウムを閉じ込め、ねじれ振り子、水晶マクロバランス等の力学的測定から比熱、圧力などの物性測定まで広範な実験研究を行っています。これまで1次元系の研究は、量子細線のような電子系を中心に行われていて、その高い移動度から素子への応用が期待されてきました。私は電子系とは異なる量子性を有する量子流体 4 Heを研究対象とすることで、低次元系の物理のフロンティアを開拓していきたいと考えています。当研究室の研究はいわゆる基礎研究に分類されます。基礎研究の役割の一つは、従来実現できなかった極限的な条件での物性を調べることで新たな学問体系を生み出すことです。それを通じて間接的に社会・未来に貢献できると考えています。ナ ノ 細 孔 束 を 膜 に 垂 直 に 配 向 さ せ る た め に、あ ら か じ め100 nm 程度の孔が空いた膜を用意します。この孔の中で反 応 さ せ る こ と に よ っ て 配 向 し た ナ ノ 細 孔 束 を 得 る こ とができます。また、ナノ細孔の孔径は界面活性剤の長さでおよそ 0 . 3 nm 刻みで制御可能です。当 研 究 室 の 測 定 手 法 が ど の よ う な 周 波 数 領 域 の 超 流 動 観測に用いられているのかを示した図です。直流の流速観測は 0 Hz 極限に相当します。ねじれ振り子、水晶振動子、超音 波 を 用 い、サ ブ kHz 〜 10 MHz の 領 域 で 超 流 動 の 観 測が可能になります。
元のページ ../index.html#11