アジアのサプライチェーン変容と日本【略 歴】専修大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。2018年専修大学経済学部助教。2021年旧環日本海経済研究所研究主任。2023年4月より現職。【専門分野】 中国経済知的財産権とイノベーション 私は大学を卒業した後、アメリカの国際物流会社の北京支社に数年間勤めていました。業務は、中国の工業製品輸出入の国際輸送業務を担当していました。当時は、なぜ中国は部品や原材料を輸入した後加工し、加工後の製品を輸出するのかという素朴な疑問を持っていましたが、日々グローバル経済に密接にかかわる業務をする中で、貿易構造についてさらに学びたいと思い、日本の大学院への留学を決めました。 大学院では、グローバル経済、アジア経済という大きな枠組みの中での中国経済について学び、中国が改革開放以降の対外開放で技術力の高い外資を誘致して加工貿易を発展させてきたこと、外資企業は中国の安い労働力や資源を利活用してオフショア生産を行ってきたこと、アジアではこうした国際分業体制ができていたことを知りました。ただ、こうした状況も中国の高度経済成長の予測不可能性や国際政治の動向、コロナ禍の影響により変わりつつあります。 こうした変化を具体的にとらえるために、新潟県立大学に入職してからは、北東アジア地域のサプライチェーンと日本企業について研究しています。中国は2010年頃まで日本企業の主要な進出先で、日本の海外現地法人数が最【担当科目】統計分析入門なども多い国です。改革開放以降、日本も他国の外資企業と同様に中国の安価な労働力を利用し、中国を生産拠点としていましたが、その後は、巨大な人口を抱える中国の市場開拓を目的として進出するようになりました。それと同時に、中国では産業集積が成熟し、フルセットの産業チェーンができました。しかし、2018年に始まる米中対立以降、外資企業はつりあげられた関税を避けるために中国から撤退し、進出先を他の国へ移転しようと動き始めました。日本企業もサプライチェーン中断のリスクを分散するために、拠点の国内回帰や東南アジアへの移転などを進めたといわれています。一方で、上述のように日本の中国拠点には歴史と蓄積があり、中国から完全に撤退する選択も難しい現状があります。以上の背景を踏まえ、日本企業はアジアにおいて、どのようにサプライチェーンを再編し貿易事業を行っていくのか、ひいては、アジア地域での国際分業はどのように変化するのかという問題意識をもって研究しています。61香港国際空港の物流基地研究紹介李 春霞准教授
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