新潟県立大学 大学案内 2025
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66国境を越えて伸びるGVCタイーラオス国境(ラオス側のバサナケット)前職の時代を含めてこれまで途上国の開発問題に取り組んできました。現在力を入れている研究分野は、東アジアの地域統合とグローバルバリューチェーン(GVC)です。途上国の開発戦略は、1990年代に大きく変わりました。情報通信革命や貿易自由化、地域統合によってGVCが発展し、その結果多くの途上国における経済発展や貧困削減に貢献しました。その中で新しく生まれた開発の概念が、GVCへの参加と高度化です。具体的には、これまで先進国を中心に行われていた企業の生産活動を分割し、それぞれの国の優位性に応じて再配置します。特に途上国では労働力が豊富なので、労働力を多く雇用する活動(例えば、製品の組み立て、検査)を通じてGVCに参加します。しかし、付加価値の低い活動ではそれ以上の発展は望めません。そのため、途上国は能力を高めて、より付加価値の高い活動(例えば、製品開発や部品生産、販売、保守)に移行する必要があります。私の最近の研究(注)では、GVCへの参加と高度化の指標を作成し、GVCの構造変化について分析しました。その結果、GVCの参加には、所得水準の上昇に伴い一定のパターンがあること、GVCの高度化は、国内生産による輸入の代替ではなく輸出の拡大によって達成されることなどが分かりました。これに続く研究テーマとして、以下の二つを考えています。一つは、米中対立の影響です。米中対立は米国、中国のみならず、日本を含めた周辺諸国の貿易・産業構造に大きなGVCはアフリカまで伸びているアディスアベバ(エチオピア)にある衣料工場(注)‌‌Ikuo‌Kuroiwa‌and‌So‌Umezaki,‌2024,‌Global ‌Value Chains and Industrial Development: Participation, Upgrading, and Connectivity (Springer‌Brief‌in‌Economics),‌Singapore:‌Springer‌Nature.影響を与えています。現在GVCの視点から、それら諸国の構造変化について研究を進めています。もう一つは日本国内のバリューチェーンについての研究です。我が国では、1970年代以降、地域間格差を是正するために、大都市に集中していた企業の生産拠点の地方分散化を進めました。しかし地域間格差は解消されません。その原因の一つは地方に置かれた生産拠点の高度化が不十分なためだと考えられます。地方の生産拠点の高度化について研究を始めたいと思います。専門分野:地域経済学、東アジアの経済発展担当科目:地域経済学I,II、東アジア経済入門、CurrentIssuesintheEastAsianEconomy、EconomicIntegrationinASEAN、入門演習I,II、専門演習I,II,III,IV略歴:アジア経済研究所に入所後、ペンシルベニア大学(博士課程)、海外経済協力基金(ジャカルタ駐在)、シンガポール国立大学、バンコク研究センターなどを経て現職、アジア経済研究所名誉研究員国際経済学部国際経済学科教授黒岩 郁雄途上国の開発戦略―グローバルバリューチェーンへの参加と高度化

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