宇都宮大学広報誌 UUnow 第43号
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UUnow第43号 2017.7.20●12■野生動物管理学と生態学皆さんは「野生動物管理学」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。私は、学部の卒業論文からイノシシを対象として野生動物管理学の研究をしてきました。この学問は生態学の知見に基づき、1980年代頃までに築かれたかなり若い研究分野です。その目指すところは「野生動物個体群」と「生息地」、そして「ヒト」に働きかけることで野生動物とヒトとの軋轢を解消したり、野生動物資源による利益を社会に還元したりすることにあります。また、これらの目的を目指す過程で野生動物を絶滅させるなど、自然に対する極端な負荷は御法度です。生態学が生物圏における生物群集と環境との相互関係の解明を目的とする純粋科学であるのに対し、野生動物管理学は人間社会に寄り添った実学分野なのです。■自然に対するヒトの責任私がこの分野を選んだ理由の一つに、あるテレビ番組の存在があります。科学好きの祖父の影響で、理化学系を好んで勉強していた私ですが、当初は現代物理学や航空宇宙力学などが興味の中心でした。しかし、ある日「野生の王国」という番組を見ていたところ、「地球上に人間の影響を受けていない自然は、もはや存在しない。真の意味での野生はなくなったため、番組は一旦終了する。自然から恩恵を受けて生活している人間は、自然に対する責務を負うべきではないか」という趣旨のナレーションが流れたのです。私は、その言葉に感銘を受け、野生動物とヒトとの関係にも関心を抱くようになりました。そして、現代物理学と航空宇宙力学、野生動物管理学を学べる大学を受験しましたが、結果として野生動物管理学が学べる大学のみ合格。そこから、現在の研究者人生が始まったのです。人口減少時代における鳥獣問題の解決を目指してPROFILE2001年、東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程資源・環境学専攻修了。03年、島根県中山間地域研究センターに特別研究員として奉職。06年、長崎県に鳥獣対策専門員として奉職。09年、宇都宮大学農学部附属里山科学センター特任助教に就任。14年、現職(宇都宮大学 雑草と里山の科学教育研究センター 准教授)に至る。主にイノシシを対象として野生動物管理学的研究に取り組んでいる。雑草と里山の科学教育研究センター小寺祐二 准教授雑草と里山の科学教育研究センター小寺 祐二准教授■野生動物管理学の変遷そもそも野生動物管理学は、欧米で発展してきました。例えば、アメリカでは白人が移住し、本格的な開拓が開始されたことで、バイソンなどが商業的目的で過剰に捕獲されて激減しました。その結果、野生動物管理に関する研究が進み、野生動物は国民の共有財とされ、行政によって管理されるようになりました。一方、ヨーロッパでは、かつての貴族が所有する猟場から発達した猟区制度があり、野生動物は無主物として扱われることが一般的です。この場合、土地所有者が狩猟権(所有地で狩猟をする際に入場料や獲物獲得料などを請求できる)を持つと同時に、野生動物の管理責任を負わされています。そのため、ヨーロッパでは、自然資源である狩猟鳥獣を管理するための学問として野生動物管理学が発展してきました。日本では、明治時代に野生動物の生息発信機を装着したイノシシイノシシの学術捕獲イノシシによる水稲被害
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