宇都宮大学広報誌 UUnow 第44号
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UUnow第44号 2017.11.20●12■「戦争と平和」一つ目のキーワードは、「戦争と平和」です。この問題を研究しようと思ったきっかけは、大学入学後初めて履修した「平和研究」という授業でした。人類の歴史を振り返ると、世界のどこかで常に人々が殺しあい、奪いあう戦争状態が発生してきました。兵器の発達に伴い被害が深刻になったことを受けて、多くの人が戦争を批判し、平和を求めているにもかかわらず、今でも戦争はなくなっていません。このような状況を前にして、限られた力しかもたない個人に、果たして何かできることがあるでしょうか。「世の中なんてそんなものだ。私たちが何か考えたって仕方がない」と、考えることを避ける立場が多数かもしれません。ところが、「平和研究」の授業は「戦争と平和」について、考え続ける必要があるのではないかという問いを、多くの歴史的事例や理論を用いて投げかけてくれました。戦争も平和も人間が発案し、計画し、実施する「人々の営み」であって、回避不可能な自然災害ではないからです。加えて、戦争に最も反対したいと考えるのは、戦争の犠牲となって亡くなった人々であろうと思われます。しかしこれらの人々は、社会に向けて戦争の問題性や、平和の必要性を訴えることができません。戦争の犠牲者がもし生きていたら、どのように考えるだろうか、という問題意識も、「戦争と平和」について考え続ける理由です。ただ「戦争と平和」といっても範囲が広いので、専門分野としては国際的な制度が戦争や平和にどのような影響を与えているのかを研究する、国際機構論や国際法を選びました。人々は戦争状態を、ただ指をくわえて傍観してきたわけではありません。戦争を防止し、平和を制度化するための国際制度を多数作ってきました。あきらめずに考え続ける「戦争と平和」「人間の安全保障」「国家と犠牲」PROFILE2006年、国際基督教大学大学院行政学研究科、博士後期課程修了(学術博士)。国際連合の安全保障体制について研究すると同時に、東京電力福島第一原発事故後の被害調査を進めている。2007年に宇都宮大学国際学部講師として着任、2011年より同准教授。国際学部附属多文化公共圏センター福島原発震災に関する研究フォーラム共同代表。国際学部 清水奈名子 准教授国際学部清水 奈名子准教授そうした積み上げがあって実現されている平和も、各地に存在しています。先日採択された「核兵器禁止条約」も、こうした取り組みの一つです。■「人間の安全保障」博士論文では、国際連合という国際機構が戦争犠牲者を救済するためにどのような制度を作り、活動を実施しているのかについて研究しました。実態を調べていくにつれて、戦争の際に弱い立場にある一般市民がいかに犠牲になりやすいかが分かってきました。第一次世界大戦では、兵士と市民の犠牲者の割合は兵士が九割超であり、市民は一割未満だったといいます。ところが第二次世界大戦では五対五と拮抗し、その後増加している内戦ではむしろ一般市民の犠牲が多数となり、九割にのぼるという研究もあるのです。従来の安全保障に関わる研究は、国家安全保障が中心的なテーマでした。いかに国家を守るのかという論点が優先され、その国家という枠組みのもとで生きる個々人がどのような状態に置かれているのかについて、十分な考慮が払われてきませんでした。この「人々をどう守るのか」という課題を浮かび上がらせるキーワードが、「人間の安全保障」です。確かに、国家が人々の安全を保障するうえで有効な場合もあるでしょう。しかし戦争の歴史が教えているのは、むしろ国家という装置が「国益」実現のために市民清水奈名子著/(株)日本経済評論社発行2011年2月28日/定価(本体4800円+税)

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