宇都宮大学広報誌 UUnow 第44号
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13●UUnow第44号 2017.11.20わたしの学生時代わたしの学生時代「冷戦」が終わったのが中学生時代、国際ニュースで「ゴルバチョフ」や「ペレストロイカ(改革、再構築を意味するロシア語)」などの言葉がたくさん流れていて、国際問題に触れる機会が多かったですね。バブル崩壊後、オウム真理教地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災と続き、縮小社会でなるべく多くの人が苦しむことのないように生きる方法を考えた世代です。国際基督教大学(ICU)は国際的な学習環境にひかれて選びました。入学して最初に平和研究所所長の最上敏樹教授による「平和研究」の授業で「戦争と平和」の問題について考える重要性について学びました。大学2年の3月には、同研究所主催の「フィールドトリップ」でナチスドイツの戦争犯罪の跡地を訪問する旅に参加しました。ドイツ、フランス、ポーランドを廻りましたが、初めて行ったアウシュビッツ収容所で、戦争になると人間はどこまで残虐になるのかを見せつけられた気がしました。被害者としてガス室で殺されたらどんなに怖いだろうと思う以上に、もし自分が当時のドイツに生まれていたら、多分ナチスに協力してユダヤ人抹殺を官僚的に仕事として関与する加害者になっていを犠牲にするという、構造的な問題の深刻さです。■「国家と犠牲」この「国家と犠牲」に関連して日本社会に問題を突き付けたのが、2011年に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故でした。日本政府も東京電力も、最も放射能汚染が深刻であった事故当時に必要な情報を発信せず、栃木県民も含めて多くの人々が避けられたはずの被ばくを強いられることになりました。この事故に由来する被ばくが人々の健康にどのような影響を与えるのかについても、市民からの要望があるにもかかわらず、適切な調査が進んでいません。戦争や原発事故のような深刻な社会的危機が発生した際に、なぜ一般市民が守られずに犠牲となりやすいのか。ここには「国家と犠牲」という共通した問題が存在しています。国家という制度は、理論的には人々の権利を保障するために作られたはずでした。ところが、声をあげにくい弱い立場の人々に「犠牲」を押し付けながら運営されてきた、という問題を国家は常に抱えているのです。こうした問題をいかに解決していくのかが、今を生きる全ての人に問われています。声をあげることのできない犠牲者が何を求めているのかについて、そして同時に多くの人々が意図せずに加害者となってしまう問題構造について、皆さんも一緒に考えてみませんか。学生時代の「フィールドトリップ」が研究の原点清水 奈名子 准教授たのではと思ったのです。戦争になると人間は個人の意志では逃れられない、その時代に生まれていたら自分も戦争や虐殺に加担したのではないかと強く感じた旅でした。帰国後に学生が撮影した写真を大学内で展示して、地域の新聞に取り上げていただきました。また自分たちで「報告書」(写真右)も作成しました。一見、平和と思われる日本に生きていると戦争は他人事の遠い問題で、自分たちに関係ないと思いがちですが、そうではなくて、すべての人に関わる問題だということに気付かされ、「この問題は避けて通れない」と思いました。ナチスの戦争犯罪の跡を見たことが、その後「戦争と平和」の問題を研究していくことになった一番の理由で、今の私の研究の原点です。表面的には繁栄したように見えた日本がバブル崩壊後、価値観や秩序がひっくり返るなかで、これからの社会でどう考えて生きていくのか社会問題を通じて考える機会の多い学生生活でした。恩師の先生方が「あきらめずに考えることは歴史に参加すること。人間が考えることをあきらめてしまうと、その時点で歴史は止まってしまう。どんな大変な時代でも、考えることをあきらめない人たちがいたから歴史は動いてきた」と話しておられたのが印象的でした。ICUはキャンパスが広くて自然が豊かです。早い時期からバリアフリー、多言語対応で、異なる立場の人を歓迎する開かれた雰囲気がありました。その自由さは、教員の国籍も多様で留学制度も整っており、多文化共生を重視する宇大の国際学部と通じるものがあります。(「わたしの学生時代」取材・文/アートセンターサカモト・栃木文化社ビオス編集室)「ガス室で殺害された死体は焼却炉で焼かれた。煙突から煙が絶えず出ているくらい、日々多くの人々が殺された。死体を焼くのも、強制労働を強いられているユダヤ人の仕事だった」(アルバムより抜粋/撮影は学生時代の清水准教授/96.3.15)「栃木県北の被災経験を語る-女性と子どもの視点から-」のページから(出典:文部科学省「文部科学省及び栃木県による航空機モニタリングの測定結果について」平成23年7月27日)栃木避難者母の会、福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト(FSP)共編(発行:2015年3月)宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター「福島原発震災に関する研究フォーラム」清水奈名子編(発行:写真上左/2016年2月:写真下左/2016年3月)
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