宇都宮大学広報誌 UUnow 第46号
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UUnow第46号 2018.7.20●12■「教育学部なのに、なぜ牛の研究を?」調査先では毎度おなじみの質問をお題に、筆をとりたいと思います。私の専門は、農産物産地の形成と動態、食料の生産から消費に至るフードシステムの空間的秩序などの解明を目的とする農業地理学です。学部3年時のフィールドワークがきっかけで酪農を研究対象に選びました。生乳生産は北海道や首都圏外縁部、その中でも酪農の存続に有利な条件を有する特定地域に集中する傾向にあります。岡山県北東部の那岐山麓に通いつめた卒論調査の日々を経て、とくに関心を抱いたのが「飼料基盤(飼料の供給源)」でした。畜産農家が栽培する牧草(写真1)やデントコーンは、作物の中では地味な存在ですが、転作田や担い手のいなくなった畑にも作付けされ、耕作放棄の抑制に一役買っています。稲作の副産物である稲わらも家畜に給与されて堆肥に姿を変え、水田の地力維持に貢献しています。大学院では、輸入穀物・牧草を原料とする流通飼料を考察対象に加え、酪農、肉用子牛生産、肉用牛肥育の地域分化と「飼料基盤」との規定的な関係を追究しました。欧米に比べて土地基盤が圧倒的に脆弱な日本で、良質な乳肉生産が行えるのは、自然的・社会的条件に適った畜種選択、集約的な飼料栽培、労力と研究を惜しまない飼料給与技術によるところが大きいのです。■研究の転機はBSE2001年9月の国内でのBSE(牛海綿状脳症)発生は、研究の転機になりました。牛肉価格は過去最大の落ち込みとなり、牛肉の生産・加工・流通の各部門は、牛の個体識別情報の管理や、消費者への安全性のアピールに追われました。運良く、安全性保証の地域システムという研究テーマが科研費・若手研究(B)に採択され、北海道十勝地域で牛肉フードチェーンの新たな主体間連携に関する調査を実施しました。これ以降「品質」の構築プロセスを研究課題に据え、2008年からの科研費・基盤研究(C)では、地元の「とちぎ和牛」、岩手県の「前沢牛」、草、牛、危機からの再生 —地理学からのアプローチ—PROFILE1996年 筑波大学大学院博士課程地球科学研究科地理学・水文学専攻単位取得退学。筑波大学地球科学系文部技官、宇都宮大学教育学部講師、同助教授を経て、2008年より現職。博士(理学)。栃木県、北海道、岩手県、宮崎県をフィールドに、畜産地域の動態、畜産物の品質保証、飼料資源の再生についての研究に取り組む。教育学部准教授 松村啓子教育学部 准教授松村 啓子北海道の「十勝若牛」の銘柄牛肉産地において、各々が目指す品質構築のための垂直的または水平的なローカルネットワークを明らかにしました。家畜市場と畜場、食肉加工センター、食肉卸売市場と、様々な現場に足を運んだことで、食の安全性・良質性の実現に要する手間とコストの膨大さを真に理解できたと言えるでしょう。■飼料資源に立ち戻る2010年4月、宮崎県で口蹄疫が発生し、29万頭の牛・豚が殺処分されました。爆発的な感染拡大の一因となったのが、殺処分家畜を埋却するための用地不足でした。この問題は、東日本有数の畜産地域を有する栃木県にとって、よそ事ではありません。そこで新たに科研費を取得し、実効的なリスク管理体制の構築に向けた地理空間情報の活用と地域防疫の方策を見いだすため、47都道府県の家畜衛生担当者に対するアンケート調査、口蹄疫埋却地の踏査、栃木写真1:牧草収穫作業(那須塩原市青木、2010年6月)

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