宇都宮大学広報誌 UUnow 第46号
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13●UUnow第46号 2018.7.20わたしの学生時代わたしの学生時代県那須地域の畜産農家へのアンケート調査を実施しました。那須地域では、飼料畑および永年生牧草地を埋却用地に当てている経営体が67%にのぼり(図1)、実際に埋却に利用された場合の耕作停止措置に懸念を抱いていることが分かりました。家畜防疫に関する研究を開始しようとした矢先の2011年3月に、福島第一原子力発電所の爆発事故が起きました。広域的な放射能汚染(図2)により、那須地域の畜産農家では上記の懸念が現実のものとなり、最長で3年間自給牧草の利用自粛を余儀なくされました。私自身は、2014年にようやく放射能汚染からの飼料資源の再生に関する研究に取りかかりました。「再生」は、被災者である農家自身が、除染と汚染牧草蒜山でのフィールドワークが研究の原点 松村 啓子小学生の頃は児童文学を読むのが好きでしたが、いつも物語の地名が気になって地図帳や郵便番号簿を見たり、情景を思い描くために百科事典をめくったりする、一風変わった子どもでした。趣味が高じて、地理学を1年次から専攻できる岡山大学文学部地理学履修コースに進学しました。岡大の地理学は、地域の諸問題に批判的精神を持って鋭くアプローチしていく伝統がありました。先生方は学生指導に大変熱心で、瀬戸大橋開通にともなう開発を検証するシンポジウムに連れて行っていただいたことをきっかけに、卒論は地域開発をテーマにしようと思ったのです。研究室では毎年3年生がリーダーとなり、8月に開かれる「中四国学生地理学会」で研究成果を発表していました。私が3年生の時は、岡山県北西部の蒜山高原の酪農業をテーマに調査を行うことになり、みんなで民宿に泊まり、ジャージー牛を飼っている農家を訪問しました。岡山市から車で片道3時間もかかる蒜山高原は、景色が綺麗で、まるで別世界でした。初めての酪農家でもっとも印象的だったのは、発酵したコーンサイレージのにおいでした。母屋のすぐ隣に牛舎があり、「家畜と暮らす」という未知の世界に衝撃を受けました。ジャージー牛の愛くるしさ、農家の方々の素朴さと優しさ、美しい田園風景に、たちまち魅入られてしまいました。母の言葉を借りれば、「牛に走った」瞬間でした。卒論のテーマは酪農になりました。蒜山での研究は、テーマ設定から報告書の執筆にいたるまで、先生方は一切ノータッチでした。学生地理学会で持ち回りの会場校になると、宿泊施設やバス会社の予約、巡検の企画など、すべて学生が担当します。これらを経験することでマネジメント力が培われて、今の仕事につながっている気がします。学生のみなさんは、若い今だからこそ、興味関心の幅を広げてほしいと思います。研究テーマになる素材は意外なところに転がっているものです。お天気が良い日に空き時間があったら、キャンパスを飛び出すことを勧めます。大学内外での人との出会いは、きっと未来の自分にとって財産になるに違いありません。岡山大学時代。蒜山三座を望む処理の過酷な作業を担うことで果たされました。「農家の辛抱強さと『土地をどうにかして使えるようにするんだ』との強い信念のもとに行われた除染事業だったとも思います」拙稿に感想を寄せてくださった農家の方の言葉です。■次のフィールドへ2012年から基盤教育科目の「里山のサステイナビリティを考える」を、松居誠一郎先生(地質学)、谷雅人先生(森林生態学)と一緒に担当し、春から秋まで茂木町入郷にある「石畑の棚田」で、学生とともに調査活動や農作業に汗を流しています(写真2)。デスクワークに埋没しがちな日常で、木漏れ日、草いきれ、泥のにおいや温かさを肌で感じ、親切な農家の方々と交流する時間はとても貴重です。一服の清涼剤を得て、また次のフィールドへと、牛の歩みながら地道に、研究を続けていきたいと思います。筑波大学大学院時代。学園都市を背景に写真2:石畑の棚田のクロ掛け作業(茂木町、2017年4月)図2:那須塩原市および那須町における空間線量率と牧草専用地の分布 (文部科学省測定結果および農業センサスにより作成)図1:那須地域における埋却用地の地目と畜舎からの距離(アンケート調査より作成)N=115
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