宇都宮大学広報誌 UUnow 第45号
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5●UUnow第45号 2018.4.20植物は動物と違って移動できないため自然環境のストレスに対する防御反応がある。岡本助教は乾燥ストレスに耐えるために必要不可欠な植物ホルモン「アブシジン酸(ABA)」の研究を長年続けている。ABAには気孔を開閉する働きがあり、周りの土壌や空気が乾燥すると植物はABAをたくさん作って気孔を閉じようとする。ABAを作れないと乾燥に耐えられず萎れてしまう。岡本助教は、植物がどのように乾燥を感じストレスに抵抗しているか、そのメカニズムを遺伝子、分子レベルで解明してきた。また、植物の乾燥耐性を効果的に向上させる人工化合物を発見。「キナバクチン」と名付けた化合物を植物に投与することで乾燥耐性が付与されることも明らかにしている。いま、温暖化による乾燥化で危惧される主食の代表的な作物である小麦で、乾燥に強い植物を作る実証実験を進めている。高校時代に「世界各地で乾燥化が進み作物の収量が落ちている問題にチャレンジしたい」という思いを抱き、大学の研究室でABAと出会う。昨年、「ABAの代謝と受容に関する研究」で文部科学大臣若手科学者賞を受賞。また、研究論文の被引用数が多い研究者に贈られる「世界で影響力の高い科学者(HighlyCited Researchers 2017)」に選出された。「いま、世界は気候変動で大変なことになっている。環境ストレスの中で作物がどう育っていくのか基礎研究を積んで行かなければいけない。研究論文の被引用数が多いということは人類の将来に密接に関わってくる問題だからと認識している」。これからの目標は、世界の研究者の注目の的となっている「植物が乾燥を感じるセンサー」を明らかにすることである。植物も動物と同様に麻酔にかかることを発見乾燥に強い植物をつくるハエトリグサやオジギソウなどの刺激を受けると動く植物を使って、植物も動物と同様に麻酔にかかることを発見した。この研究は前任のドイツ・ボン大学にいた2015年に着手。ドイツ、チェコ、イタリアの研究者とまとめた論文が昨年、英国の国際植物科学誌「Annals of Botany」に掲載された。「麻酔薬がヒトに使われ始めて150年以上たつのに、どのようなメカニズムで神経細胞に作用し意識を失わせるかについてはほとんど不明のまま。現象としてオジギソウに麻酔をかけたら動かなくなったということは百数十年前の実験で確認されていると知り非常に興味を持った。現代の植物生理学の手法を使えば『麻酔がなぜ効くか』の解明に迫ることができるのではないだろうか、と考えた」研究では刺激を受けると葉を閉じる食虫植物に麻酔をかけると刺激に対して反応がなくなることを確認し、この現象をハイスペック顕微鏡を用いて細胞レベルで何が起きているかを追いかけた。麻酔により細胞膜の状態が変化し、細胞の「活動電位」が消失していることを、植物を使って初めて突き止めた。動植物に共通してみられるこれらの細胞機構が麻酔薬のターゲットである可能性を示した。古い研究をベースにして、「ヒトになぜ麻酔が効くのか」という根源的な問いに迫ることが出来た。「動物実験は最小限に留めようという世界的な流れの中、そのメカニズムを植物実験で解明することが科学者としての興味。応用面では、例えば創薬など医療の分野に貢献できるのではないかと考えている。麻酔をかけると植物は休眠状態になる現象を農業や園芸などの分野に活用することも考えられる。新しい研究のアイディアが生まれている」麻酔前のハエトリグサ。刺激に反応して葉を閉じる(上)麻酔をかけると葉を閉じない(下)トマト野生株(上)ABAが合成できない変異株(下)ERATO(科学技術振興機構)陽川 憲 特任助教植物資源科学研究領域岡本 昌憲 助教■■

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