宇都宮大学広報誌 UUnow 第48号
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UUnow第48号 2019.4.20●4*衣装協力:小山市工業振興課―今回の研究の背景や経緯について聞かせてください佐々木 私は専門としている衣生活から、服を含めた環境のあり方について環境教育的なアプローチで研究をしてきました。特に、伝統的な染織に着目し、結城紬の研究は10年以上になり、産地、業界の方々との人脈も築いてきました。その中で「伝統文化の大切さを次代を担う子どもたちへ伝えていく」という、いわゆる教育学的なアプローチだけでは業界支援に結びつかないことを感じていました。宇大の研究コアとして「宇都宮大学感性情報科学研究会」(UU-KISS)が立ち上げられたというタイミングもあって、同じ研究会のメンバーで情報工学の立場から衣服を取り扱っていた石川先生の研究と私の研究をコラボさせることで業界支援につながらないかという発想で立ち上げたのが、この異分野融合プロジェクトです。石川 感性情報学での科研費獲得件数(2009年〜14年)が全国1ということでメディアにも取り上げられ、宇大の感性情報学がフォーカスされました。このころ、大学のミッションの再定義で宇大の強みとして「文理融合による感性情報学」が位置づけられ、15年にUU-KISSが設立されるという経緯があります。―「感性情報工学」とは、どのような学問なのでしょうか石川私は「物事に対する嗜好・印象と物理的なデザイン要素の関係を明らかにして、『感性』を設計に活かせる具体的な情報にする学問分野のこと。プロダクトデザインから風土を活かした地域設計まで、人間が関わるあらゆる物事が研究対象」と説明しています。人間がみているモノの色や形などの物理的な情報が人の嗜好、印象に影響を与えたり感情をかきたてたりというような現象を扱うのが感性情報学で、そのメカニズムが解明できれば感性を設計に活かすことができるのです。感性に作用する情報に基づいてデザインする。実はモノをつくる人は常に感性情報工学をしているのです。佐々木「感性」の定義は立場によって変わってきます。例えば哲学が専門のある先生は感性を「自己を取り巻く環境との関係性創造能力である」ととらえます。感性工学の発展に寄与された私の恩師は「人々の互いの心のやり取りの能力であり、互いの幸福を高め合う能力」と定義し、「感性を生活の向上に活用しようとする技術が感性工学」と説明しています。感性工学は発想そのものが文理融合であり、工学の新たなスタイルなのです。―結城紬にどのようにアプローチしていったのですか石川結城紬の魅力が本当に伝わっているのかという課題があったため、「ふっくらで柔らかい風合い」「保温性が良い」などの魅力本学では、地域を代表する伝統的な特産品であり、ユネスコ無形文化遺産でもある結城紬を、感性情報工学による評価を行い、その特長、魅力を明らかにし新たな価値を付加することで、結城紬産地の再生に向けた取り組みに協力しています。これは、文理融合による新たな研究スタイルでもあります。今回、このプロジェクトにおいて中心的な役割を果たしている工学部の石川智治准教授と教育学部の佐々木和也教授、そして工学部の森博志准教授に、研究の背景や成果、結城紬の魅力や今後の展望などの話をうかがいました。(写真:左から森 博志 准教授、佐々木 和也 教授、石川 智治 准教授)*本プロジェクトの成果は、総務省のSCOPE(152303002)および、宇都宮大学研究拠点創成ユニット(UU-COE)の支援によるものです。

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