宇都宮大学広報誌 UUnow 第49号
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UUnow第49号 2019.11.20●14■文化人類学の考え方専門は文化人類学です。文化人類学は、フィールドワークをして民族誌を執筆する学問です。フィールドワークでは人々と出会い、その言葉を学び、長い時間をともに過ごします。そのなかで、自分自身のものの見方や、調査を始めたときに立てた問い自体が変化することがあります。これは当然のことです。私たちは皆、育ってきた境遇や言語、人間関係などによって認識を方向づけられており、それが他者との関わりを通じて再編成されるからです。それゆえ他者を理解しようとすることは、自己が当たり前に生きてきた認識を解体し、変容させることにほかなりません。私たちは自己のアイデンティティや文化の固有性について語り行為しますが、しかし実際にはいずれも固定的なものではありません。ほとんどの人は、さらされる状況に応じて自己を使い分けています。実家では娘としてふるまっていた人が、大学では学生となり、アルバイト先では講師となるのはごく普通のことです。敬意の示し方が異なる言語を新たに学べば、同じ相手と話すのでも距離感は変わりえます。一貫した単一の自己を確立しなければならないように感じるかもしれませんが、実際は、何を食べ、どの言語を話し、誰とともにあることを選ぶかによって、私たちは常に、異なる主体性へと自己を開いています。そのような変化を肯定しつつ、変化した自己にさえ安住しない文化人類学の考え方を、流動的な多文化共生の時代を生きる学生の皆さんに伝えていきたいと考えています。■南米のイエズス会ミッション上述の文化人類学の観点から、南米先住民のキリスト教化の歴史変化を肯定する文化人類学PROFILE東京藝術大学音楽学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。修士(学術)。専攻は文化人類学。日本学術振興会特別研究員、東京海洋大学・東洋大学非常勤講師を経て、現職。国際学部助教  金子亜美国際学部 金子 亜美助教と現状を研究しています。植民地時代のアメリカ大陸において、先住民のキリスト教化は、諸帝国の版図拡大にむけた公式事業のひとつでした。実際の宣教活動に携わる組織として各地へ派遣されたのは、カトリック系の諸修道会です。とりわけ17世紀以降、植民地支配のいまだ及ばない地域へと征服の前線を拡大するにあたり、これら修道会は宣教のみならず各地方での世俗的な役割も任されるようになりました。この体制のことをミッションと呼びます。ミッションでは、先住民に定住生活とキリスト教を学ばせるために、布教区と呼ばれる居住空間が作られました。私が特に研究対象としているのは、旧スペイン領南米のチキトス地方、今日のボリビアとブラジルの国境地域です。日本で宣教を行ったフランシスコ・ザビエルの名によっても知られるイエズス会が、17世紀末から18世紀にかけて、この地域に10箇所の布教区を築きました。ここで2年間のフィールドチキトス地方の旧布教区近郊の集落で守護聖人祭のためにヴァイオリンを演奏しつつ歌う人々

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