宇都宮大学広報誌 UUnow 第50号
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UUnow第50号 2020.4.20●12■成長の早い樹木から得られる木材の材質「成長の早い樹木から作られた木材の材質は良いか、悪いか?」と質問をしたら、皆さんはどう答えるでしょうか。私は、このことが知りたくて、日本のみならず、東南アジアの熱帯林からシベリアタイガまで訪問してサンプルを採取し、材質を調査しています。■バウムクーヘンと年輪皆さんは、バウムクーヘンを食べたことがあるでしょうか? バウムクーヘンは、ドイツ発祥のケーキで、日本語に翻訳すれば「木のケーキ」です。ケーキに白い部分と茶色い部分を同心円状に配列させることで、樹木の年輪に似せています。ドイツや日本のように四季がある国で成長している樹木は年輪を形成します。一年間に樹木が成長してできる年輪は、バウムクーヘンで言えば、白い部分と濃い部分一つずつを合わせた部分ということになります。樹木の年輪の幅は、樹木の直径が大きくなる速度と連動しています。すなわち、樹木の直径成長の速度が速ければ年輪の幅は広くなり、逆に速度が遅ければ幅は狭くなります。■良い材か悪い材か?スギやヒノキなどの針葉樹材には「未成熟材」という考え方があります。丸太の断面を見たときに、中心からおよそ20年輪目までの部位にある木材は材質が不安定であり、利用の際に注意が必要で、この部分を「未成熟材」と呼びます。一方、中心から20年輪目以降の部分は、材質は安定しており「成熟材」と呼ばれています。丸太の断面を見てみると、年輪の幅は、中心部の方が比較的広く、樹皮側に向かってだんだんと狭くくなることがほとんどです。従って、「丸太の中心部には未成熟材が存在し、その部分の多くは年輪の幅が広い」と言えます。実は、このことが、「広い年輪幅=質の悪い材」と「成長の早い樹木から作られた木材の材質は悪い」というイメージを形成しているのです。実際には、成熟材であれば、年輪樹木の成長と木材材質の関係を求めて熱帯林からタイガまでPROFILE宇都宮大学農学部卒業、宇都宮大学大学院農学研究科(修士課程)修了、東京農工大学大学院連合農学研究科(博士課程)修了。博士(農学)。専門は木材組織学・木材材質学。日本学術振興会特別研究員、宇都宮大学助手、助教授を経て、現職。農学部准教授 石栗 太農学部 准教授石栗 太の幅の大小と材質の良し悪しは、関連性がほとんどない場合が多いのです。■熱帯ではどうか?タイ、インドネシア、マレーシアなどの熱帯地域では、極めて成長の早い「早生樹」と呼ばれる樹木が、紙の原料などの生産を目的として大規模に産業植林されています。植栽後4〜10年程度で、直径は10〜20㎝に到達します。この産業植林は、木質資源を持続的に利用可能とするために不可欠であり、これにより天然林から木質資源を得ようとする圧力を低下させることになります。これらの早生樹では、はじめに皆さんに質問した「成長の早い樹木から作られた木材の材質は良いか、悪いか?」の答えはどうなるでしょうか?私たちの研究室で調査した結果では、多くの早生樹において「成長の早い樹木が必ずしも悪い材質の木材を生産するわけではない」ということが明らかになりました。従って、早生樹においても、持続的かつ効率的に品質の高い木材を生産することが可能です。ヤツガタケトウヒの年輪バウムクーヘン(木のケーキ)

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