宇都宮大学広報誌 UUnow 第50号
13/16

13●UUnow第50号 2020.4.20わたしの学生時代わたしの学生時代私私私私私私私私私私■より良い品質の木材を生産するために私たちが普段スーパーなどで購入して食べている野菜や米は、多かれ少なかれ品種改良がなされています。樹木にも品種があり、野菜や米の場合の「味」が、樹木で言うところの「木材の材質」となります。そのため、樹木でも品種改良が行われています。私の研究室では、国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターや千葉県農林総合研究センター森林研究所などの研究機関との共同で、スギ、ヒノキ、カラマツ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツなどの針葉樹種の木材材質の家系間変異を調査してきました。その結果、成長特性が優れ、かつ木材材質の優れた家系が存在することを明らかにしてきました。このような家系が今後利用されることによって、より効率的に高品質の木材生産が行われると考えられます。また、ここ数年、モンゴルにおいて品種改良の基礎となるような英論文作成の思い出石栗 太(「私の学生時代」取材・文/アートセンターサカモト・栃木文化社ビオス編集室)宇大農学部森林科学科を選んだのは、父親の材木関係の仕事の影響です。子どもの頃から工場の中で遊んでいましたから、基本的には木材の仕事がしたかったのかもしれません。大学に入るまで木材産業の中に学問はないと思っていましたが、産業の中で研究が役立つことがわかり勉強が面白くなりました。大学時代の恩師故吉澤伸夫先生(元森林科学科教授)から「うちに来て勉強していいぞ」と言っていただいてから長くこの研究室にいます。吉澤先生は偉そうで怖い感じに思われていることが多いようでしたが、私が「こうやってみたい」と伝えると、「いいじゃないか」と、自由に研究させてくれましたし、英文の論文などは一字一句ていねいに添削してくれました。私にとっては「恩師」でもあり、父親でもあるようでした。ちょうど父親と同じ年齢でしたので。修士時代には国際会議に私も含めて学生3人が参加することになりましたが、会議に出席する前に英語の論文を書き上げて提出せよということで、学生たちは文字通り朝から晩まで英論文の作成に取り掛かりました。先生は英文を一文ずつ確認しながら赤ペンでびっしりと修正していき、赤がいっぱいになるとその上に青ペンで修正してくれました。学生たちは朝9時に先生が来られるまでに提出しなければならないので、徹夜で必死に書き直しました。今思えば、先生は3人分の英語の論文を毎日修正するので大変なことだったと思います。こういう経験を学生時代にできたことが、今の研究への礎となっています。忘れがたい思い出です。先生はどうして私を研究室に招いてくれたのか、亡くなられた今は聞くことができませんが、今でも近くで見守っていてくれるような気がします。私が研究を続けているのは先生がとてもよくしてくれたことと、研究そのものが面白かったということだと思います。今は学生も教員もインターネットなど便利なものがありすぎてかえって大変かな?私の学生時代は単純で手がかかりましたが、その中で面白いことをみつけられたかもしれません。学生は教員と飲食を共にしながら解放された気分で議論する場が与えられていましたが、そういうことも含めて今度は私が恩師から引き継いだことを学生に伝えていく番だと思っています。大学院時代。恩師吉澤伸夫教授(中央)と後輩と(右)。調査も行っています。モンゴルは、草原のイメージが強いと思います。イメージ通り国土に占める森林面積は10%以下と低いです。しかしこれは国土面積が広大なためで、森林面積そのものは日本の森林面積の約3分の2も存在しています。このモンゴルの森林のうち、75%は日本のカラマツと同属のシベリアカラマツの天然林であり、この種がモンゴルにおける重要な林業樹種です。私の研究室では、モンゴルからの博士課程の留学生が中心となり、モンゴル科学技術大学林業・木材産業研究所と共同研究でシベリアカラマツの成長や木材の性質が地域ごとに異なるのかを調査しています。その結果、基礎的な木材性質に加えて、建築用材として利用可能な製材品の品質も産地間で異なることが明らかになりました。このことから、本種は、モンゴルにおいて品種改良が可能であり、改良した品種を用いることで、質の高い木材を効率良く生産できる人工林の造成が可能になると考えています。タイの4年生のユーカリ林モンゴルでの材質調査

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る