UUnow第51号 2020.11.20●12私が時間をかけて取り組んでいる研究は、大きく言えば美術史と呼ばれる領域に属するものです。ここではキーワードを4つ挙げて、この研究領域を紹介したいと思います。■「歴史」政治史、近代史、日本史、女性史、思想史、文学史、社史、自分史、等々。扱う事象、対象、時代、地域、概念によって様々な歴史が記述されます。それぞれが扱う時間の長さや対象の範囲は様々で、また記述の仕方も多種多様。書店や図書館に並ぶ様々な○○史の書籍を眺めていると、私たちのいるこの世界がいかに多くの歴史のもとに成り立っているのかということに気付かされます。とはいえ、こうした様々な書物によって歴史の全てが明らかになるわけでは当然ありません。歴史は書物として文字になったものだけを指すわけではなく、語り継がれる歴史もあります。また、語られることもなく、人同士の関係を介して、あるいはモノや環境などを介して記憶に刻み込まれていく歴史もあります。その意味で、歴史とは人のあらゆる営みを対象とした壮大な学問であり、例えば西洋では、「歴史の父」と呼ばれるヘロドトスがいた古代ギリシアの時代以来の、文字通り長い〈歴史〉を有した知の集合と考えることができます。■「美術史」こうした知の集合を構成するひとつの歴史が美術史です。美術史とは美術作品というモノを中心に記述された歴史であり、古代以来の〈歴史の歴史〉(!)と比較すると〈美術史の歴史〉は新しく、作品を扱う学問としての近代的な美術史は18世紀ドイツのヴィンケルマンという学者周辺から発し、19世紀にドイツの大学で美術史学の講座が開かれました。比較的若い美術史ではありますが、この約200年余の取り組みの結果、多様な美術史の記述方法が提案されてきました。制作過程や様式など作品そのものを扱う美術史、作品を取り巻く文化、思想、社会を扱う美術史、ジェンダーや階級といった作品の根底にあるイデオロギーを読み解く美術史、等々。こうした多様な美術史の方法論にあって、私も複数の美術史に取美術史という旅、そして公共性PROFILE東京外国語大学卒業、リーズ大学大学院修了(MA)、日本大学大学院修了(博士)。西洋美術史。2014年より宇都宮大学国際学部で「イギリス文化論」等を担当。国際学部准教授 出羽尚国際学部 准教授出羽 尚り組んでいるところですが、一番重要だと考え、そして時間と労力をかけているのは、作品そのものを扱い、様式やイメージ生成の変遷をたどるという、美術史の出発点となる方法です。■「イギリス」主に時間をかけて勉強しているのは、イギリスの18、19世紀の風景画で、特にターナーという風景画家の作品です。画家は自身の想像力のみによってイメージをゼロから作り出すのではありません。過去の絵画作品や出版された挿絵など、形として成立している既存のイメージはもちろん、目に見えターナーの作品を所蔵するロンドンのテイト美術館※〈美術史の歴史〉についても様々な文献があります。「美術史の歴史」で検索!
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