新大学院の特徴の一つに分野融合研究があります。ここで、分野融合の研究例を3件紹介します。■ 早崎芳夫研究室(オプティクスバイオデザインプログラム)産業構造が大変革する中、ものづくり産業においても、変化できた技術だけが生き残ります。レーザー加工は、仮想空間との良好な接続性、スマート化との高い整合性、多品種生産への高い対応性等の特徴を有するため、この変化は追い風でしょう。これらの実現技術は、次世代の技術者が身につけるべきものであり、研究を通してそれらを学べます。私たちは、この要求に応えるために、2018年11月から、内閣府SIP「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」に参画しました。その目的は、ホログラムによるレーザー光の空間的成形を計算機制御することで、高速・高品質なレーザー加工(図1)を実現し、その社会実装を通して、日本のGDP増大に貢献することです。その際、圧倒的に高い費用対効果を実現するか、本技術のみで実現できる新応用を開発するかが重要であり、異分野融合研究が不可欠です。博士後期課程の学生は、観測しながら加工を行うディジタルフィードバック制御の研究を行いました。これにより、高品質な加工に加えて、予測不能なサンプル変動に対応できる高安定な加工を実現できます。その観測には、情報工学分野や機械知能工学分野教員の協力を得て、音波計測や歪み計測の導入を試みています。応用開発では、熊谷幸汰助教が博士課程学生時から筑波大学や東京大学の教員と体積ディスプレイ(図2)の研究、長谷川智士助教がバイオ分野の教員とバイオ細胞へのレーザー照射応答の研究を共同で行いました。同時に、地域企業を含む、自動車、印刷、情報通信、ガラス等の企業技術者と学生とが協力して、多方面からの応用開発を進めており,それらの企業は博士課程学生の就職先にもなっています。このように、私たちは、学際的・産学連携的に研究を進め、地域から日本の発展に貢献すべく、開発技術の持続性のある社会実装を進めています。■ 中島史郎研究室(先端工学システムデザインプログラム)素材(丸太)から柱や梁などを加工する際には、柱や梁には向かない低質な材や製材過程で生じる端材などが多く発生します。低質材や端材は安価で取引されることが多いですが、仮に製材時に発生する端材などに対する新たな需要を開拓し、高い価値を与えることができれば、地域の木材産業の新しい収入源を創出できる可能性があります。このような材を外壁用部材(以下、外壁用木質断熱パネル:Mass Timber Curtain Wallと呼びます)の構成材として利用することができれば、新たな木材の需要につながる可能性があります。また、Mass Timber Curtain Wallの内壁面(木が見える面)を屋内の仕上げとしてそのまま使用し、人に優しい屋内空間を構成することも可能です(図3)。Mass Timber Curtain Wallには、強度性能に加え、断熱性能が必要となります(図4)。また、実用化に向けては、施工・納まりなどついての設計を行い、内壁木部が人に与える印象などについても検証する必要があります。さらに、需要を開拓するために建物の改修にも使えるような技術を開発する必要があります。一方、提案する用途が地域の林業や木材産業に対して、どのように貢献するかを見極めることも重要です。2019年度から実施している分野融合型研究「栃木県産材を活用したビル用木質断熱パネルの開発と導入効果」では、建築学、光工学、情報などの様々な分野を跨いで連携しながら技術開発を行っています。■ 長谷川光司研究室(先端工学システムデザインプログラム)2018年からは工農連携地域貢献プロジェクトとして、生産地緯度が異なるユズの成分分析および機能性についての研究に取り組んでいます。昨今の日本食ブームの影響もあり、国産ユズの人気が欧州を中心に高まっています。国産ユズの出荷量は四国・九州地方が約90%を占めており、栃木県を含む北関東地方の出荷量は2%もありません。しかし、ユズ生産者および一部の企業の間では、栃木県のユズは南方のユズに比べ香りが強いと言われており、大手酒造会社が栃木県産ユズを数十トン単位で買い付けを行った事例もあります。そこで私たちは四国・九州地方で栽培されるユズと栃木県で栽培されるユズ、それぞれの特徴を明らかにすることを目的とした研究に着手しました。香り成分分析と機能性成分分析は、共同研究を実施している分析化学分野の教員と連携し、ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC-MS、図5) や液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS) を用いて分析を行っています。機能性の検証についても、生命科学分野の教員と連携し、マウスを用いた動物行動試験を実施したり、ユズの香りを嗅がせた被験者の唾液を採取し、唾液中に含まれる精神的ストレス指標であるクロモグラニンA濃度を測定するなどして、ユズの香りが持つ抗ストレス作用について多角的に検証を行っているところです。このように私たちは分析科学、動物行動学、生理学、感性科学といった学際的なアプローチで地域産業の活性化に貢献できるような研究に日々取り組んでいます。以上のように、新大学院地域創生科学研究科 博士後期課程 先端融合科学専攻では、分野横断的な融合研究を推進しており、 これらの研究は、これまでにない画期的な技術革新を世の中にもたらす可能性を秘めています。また、様々な企業との共同研究が、就職に発展する場合も少なからずあり、キャリアパスの選択肢の一つにもなっています。図1 レーザー加工描画の「真珠の耳飾りの少女」図2 カラー体積ディスプレイ7●UUnow第52号 2021.4.20先端融合科学専攻における分野融合研究図4 Mass Timber Curtain Wallの強度試験(左)と断熱性能の解析(右)図5 GC-MSによる香気成分分析(社会人学生 北本拓磨)新入生応援企画2222222222図3 開発中のMass Timber Curtain Wallの概要
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