宇都宮大学広報誌 UUnow 第53号
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UUnow第53号 2021.10.20●12私の研究室では、ソフトマター物理・生物物理の研究と、それらを用いた教材開発を行っています。■ソフトマターとは一般に金属や半導体のような「固体」でないものを総称して「ソフトマター」と呼びます。典型的なソフトマターとして「コロイド」があります。これは、気体や液体、固体などの中に直径10のマイナス9乗から10のマイナス7乗メートル程度の粒子がバラバラに存在している「状態」です。粒子も気体や液体、固体の場合があります。例えば、液体の中に気泡が分散しているビールの泡、液体の中に液体の粒子が分散している牛乳やマヨネーズなどがあります。液体に赤血球や白血球が分散している血液もコロイドです。コロイドの他にもゲルや液晶など様々な構造をもったソフトマターがあり、身の回りのいたるところにソフトマターがあります。■生体内のソフトマター最も身近なソフトマターが「私たちの身体」ではないでしょうか。「固体」と言えるのは歯や骨などの一部のパーツだけで、それ以外の大部分、例えばタンパク質や血液、細胞膜などは、高分子やコロイド、両親媒性分子の集合体といったソフトマターです。ソフトマターの特徴として、柔らかな構造体のために熱揺らぎ程度の小さなエネルギー差によって構造が変化することが挙げられます。生体も例外でなく、熱揺らぎにさらされながら秩序を保ちつつ機能しています。■細胞モデルをつくる熱揺らぎにさらされながらも機能する生体の驚くべき性質について、「生化学」や「分子生物学」などの分野で解明が試みられています。そこでは、目的とする細胞機能に不必要な分子等を生細胞かソフトマター物理・生物物理の研究とそれらを活かした教材の開発PROFILE日本大学理工学部物理学科 卒業、お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科理学専攻 修了(修士)、東京大学総合文化研究科広域科学専攻 修了(博士(学術))。2013年−2019年日本女子大学理学部数物科学科 助教。2019年から現職。共同教育学部理科分野助教 夏目ゆうの共同教育学部 助教夏目 ゆうのら除去していき、機能に必要な要素を残すトップダウン型アプローチが主にとられています。一方で、生体機能の解明に物理学を活かす方法として、ボトムアップ型のアプローチがあります。組成のよくわかった簡単な物質から細胞モデルをつくって機能させることで、多様な生体の構造や機能に共通する法則を探ります。■こみあい効果本研究室ではとくに、細胞の「こみあい効果」に着目して熱・統計力学的な細胞モデルをつくっています。細胞は、細胞膜で覆われた空間の中にタンパク質や細胞小器官などが密に詰まった構造をしています。このこみあいを緩和するために生じる高分子鎖の凝集や偏在が、タンパク質の折りたたみ、核内部のクロマチンの凝集といった、細胞内の構造形成に関わっていることが明らかになりつつあります。私たちは、細胞膜と同じ種類の脂質分子からなる袋状膜(ベシクル)の内部に、高分子鎖やポリスチレンビーズを閉じ込めた系を作成し、その振る舞いを調べています。細胞と細胞モデルの模式図ビーズを内包したベシクルの変形(「Natsume,Y.et.,Soft Matter 2010」より)

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