宇都宮大学広報誌 UUnow 第53号
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13●UUnow第53号 2021.10.20私私私私私私私私私私■膜変形モデルここでは、ベシクルの内部に密にプラスチックビーズを詰めた場合を紹介します。高張液を添加すると水がベシクルから抜け、膜がぶよぶよと揺らいだ状態になり、変形を始めます。ビーズを内包した球状ベシクルは、赤血球状や筒状の形になった後、小さな球が連なる形状に変形します。空のベシクルでは、赤血球状や筒状で変形が止まります。小さな球をたくさんつくることで、膜の弾性エネルギーがあがる一方、扁平な形状よりもビーズが動き回る空間が増え自由エネルギー的に得をすると見積もられます。つまり、内部のビーズのこみあいを緩和するよう膜が変形していると言えます。現在は、内包物のサイズや密度をコントロールするとともに、膜分子類似分子を添加し、膜面積が増加する幾何的な自由度の高い系で、ベシクルがどのように変形するか調べています。このように、こみあいと膜変形の関係を明らかにすることで、薬剤を内包したベシクル型ドラックデリバリーシステムの安定性に対する要素技術につながります。また、生命が誕生した当初から、宇大は原点にかえったような大学夏目 ゆうのスマホ顕微鏡を用いたソフトマターの観察大学教員の道に進んだのは、父(現千葉大学名誉教授)の影響が大きいです。両親が共働きだったため、私は物理を教える父の研究室によく連れていってもらいました。夏休みには父の研究室で勉強をして生協食堂で昼食を食べたり、地方の研究会に一緒にいったりしました。大学生が植物採取を手伝ってくれるなど、大学が遊び場のような環境で、理系になじんでいきました。また、地域の少年団では、教育学部の学生が小学生を夏はキャンプ、冬はスキーに連れていってくれ、毎年のように参加していました。その大学生たちが、私たちの小・中学校に教育実習にきて地域の学校の先生になっていきました。宇大生は同様に、実験教室などを通して地域に貢献したり、将来的に地域の教育を担ったりしています。そのため、私にとって宇大は原点にかえったような大学です。学部生時代は、理工学部の物理学科で学び、実験と演習の時間が長く、それに伴う課題も多かったため勉強はとても大変でしたが、その時の講義や演習のノートは今も研究室にあり見返しています。また、小学生の頃に親しんだ活動を自分が大学生になったら行いたいと考えていたので、小学生向けの理科の実験教室を行うボランティアサークルで活動していました。その中で、様々な大学の研究室に所属している先輩方から研究内容をうかがう機会があり、学部時代に一番興味を持った分野の研究を行う先輩が在籍する研究室に修士課程で進学しました。その後、研究内容が近い先生が「新しく研究室を立ち上げる」ということで、所属していた研究室の先生の後押しもあり、博士課程から研究室を移りました。研究室の立ち上げのため、スタッフも学生も一緒に実験室の見取り図をつくったり、メーカーに実験装置のデモを依頼したりと環境を整えていきました。先生に「自分の研究がしやすいように整備してください」と言っていただき張り切っていたのを覚えています。今の宇大の研究室の立ち上げに、この時の貴重な経験が活きています。大学院での実験・研究を通して、手の中で起こる具体的な事象が物理の基本的な法則で説明できることに改めて面白さを感じるとともに、答えのわからない事象に取り組む難しさを感じました。そういった事象に取り組む際には、コントロールできる要素は何か、明らかにしたい事象に対してどのような段階を踏む必要があるかなどをよく考える必要があります。学生の皆さんとこれらの過程を共有していくことで、その経験を社会で活かしてもらえたらと考えています。学生時代に大学の研究室で現在のような複雑な機能を有していたとは考えられず、原始的な細胞がどのように分裂機能を得たかという、生命起源の探究としても意味を持ちます。■分野横断型教材の開発ソフトマター物理・生物物理は、物理・化学・生物の境界に位置する領域です。この特性を活かして、中学生や高校生が3分野を横断的に学習できる教材の開発を行っています。細胞モデルを用いた教材を通して、高校物理「復元力」「弾性エネルギー」と化学「熱運動」「浸透圧」「コロイド」、生物「細胞」「生命起源」などを関連付けて学ぶことができると考えています。ICTの普及にともない、タブレット型コンピューターと専門の顕微鏡を使って、観察や解析、結果の共有などが簡単にできる実験系を組み立てています。そうすることで、生徒が授業中だけでなく、自宅などにおいても観察や解析を行い、自ら探究的に学びを深めることができる教材にしたいと考えています。実験用器具類や顕微鏡等が並ぶ夏目研究室

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